一般社団法人「落語協会」の「真打昇進襲名披露興行」が9月21日から東京都内の演芸場で始まった。柳家やなぎ、林家なな子、吉原馬雀、入船亭扇白、金原亭馬好の5人が新たに真打ちの看板に加わった。
真打披露興行では、今まで「真打ち」手前の「二つ目」という身分だった噺家(はなしか)が、その興行から「トリ」をとる。トリというのはご存じのようにプログラムの最後の出番であり、先輩たちが温めてきたその日の寄席の「締め」を託されるのだ。
私も13年前に経験した。その日から「師匠」と呼ばれるようになるのだが、「なに言ってやんだ」と思った。「本当に心から呼んでるとは思えん、そういう決まりだから呼んでるんだろう」と。われながら捻(ひね)くれている。
とにかく気を使った。まず集客。ここで客を呼ばないと、これから寄席で使ってもらえなくなるかもしれない。そして当日の楽屋への酒・肴(さかな)の支度、前座やお囃子(はやし)さんや後輩への謝金(心付け)、ごひいきへのあいさつ、打ち上げの差配など、トリの一席の他にやらなければならないことが山ほどある。
「こんなに気持ちも懐もテンパっていて、最後にいい噺なんかできるか!」と内心憤った。しかもどんなに気を使おうと、「アイツは礼儀がなってない」とか重箱の隅をつつくような話が出てくるものだ。
あー、思い出したくない。と、思いつつ…実はちょっと羨(うらや)ましい。こんなヒリヒリするときはこの先ないかもしれない(いや、なきゃいけないんだけど)。
噺家人生のなかで一番「密」なのが真打ち披露。ここを懸命にやり抜けば、この先もっと「密」な噺家ライフが待っている。
13年経(た)ってわかったことは、先輩はみんな新真打ちの味方。みんな通ってきた道、辛(つら)いこともうれしいこともわかってる。ドーンっとやったらいいんだよ。
だからみんな頑張れ。披露興行は都内の演芸場で11月9日まで。新真打ちを聴きにぜひ寄席へおいでください。