【妄想亭日常】 「続・新作落語の扉」弁財亭和泉
二ツ目に昇進して初めての夏。新作落語に興味は持ったものの、どうしていいか分からず、円丈師匠のお弟子さんで新作派の三遊亭玉々丈(現三遊亭れん生)さんに相談をしました。
アドバイスをもらって、まずは新作落語とはどんなものか新宿のプーク人形劇場で開催される新作落語お盆寄席、通称プークに勉強に行ってみることにしました。先輩の落語を勉強したいときは楽屋にお邪魔して、舞台袖から高座を見学させていただくことができます。
楽屋のすみで小さくなっていると、円丈師匠が入ってきました。
「おはようございます。勉強に伺わせていただきました」と挨拶をすると、ハイハイといった感じで目も合わせずボソボソっと、「できたら連絡して。(舞台の方を軽く指さして)すぐに上げてあげるから」と言って去っていきました。
私は、しばし呆然(ぼうぜん)。・・・できたらって、新作のことですよね。
どうしよう。
まだ作れるかわからないのに。
円丈師匠の言葉が、頭の中で呪文のように反響し続けました。
でも、直接声をかけていただいたのに今度会ったとき、「作ってません」とは口が裂けても言えない。とにかく作らねば。この思い込みから、帰宅後徹夜して初めて自作の新作落語を作りました。
勉強に来ただけの私になぜ「すぐに上げてあげる」と言ってくださったのだろうと不思議に思っていましたが、実は私だけではなく、普段から若手には声をかけていたそうです。
円丈師匠は、新作落語はイバラの道だと言っていました。確かに、進めば進むほど実感します。新しい噺を作り続けるのが大変で途中で止めてしまう人も少なくないですし、それどころか作り始める前から難しそうだからと諦めてしまう人も多い。
だからこそ円丈師匠は新作落語の扉の前で中をのぞいている若手には声を掛け、せめて入り口だけでも入りやすくしてくれていたのかもしれません。
新作界のカリスマは最後まで先頭でイバラの道を突き進む姿を見せてくれました。円丈師匠ありがとうございました。