2025年5月8日(木)「J亭スピンオフ 柳家三三・春風亭一之輔 大手町二人会」@日経ホール
演目は以下のとおり
桃月庵こはく『牛ほめ』
春風亭一之輔『ぜんざい公社』
春風亭一之輔『三枚起請』
~仲入り~
柳家三三『法事の茶』
柳家三三『黄金餅』
今回は三三のスケジュールの事情により前半が一之輔、後半が三三という構成。一之輔の一席目は4月の「落語一之輔春秋三夜」でネタおろししたばかりの『ぜんざい公社』で、国立演芸場主催公演のシステムが民間の寄席と違う(国がやることなので融通が利かない)という話題をマクラに振ったのは見事な流れ。チラシを見てぜんざいを食べに来た訪れた男をたらい回しにするぜんざい公社の各担当者の冷静さと、振り回される男の苛立つリアクションとの落差の可笑しさに磨きが掛かって古臭さをまったく感じさせない面白さ。持ちネタとして寄席などでも活用できそうだ。
二席目は吉原の喜瀬川花魁から「年季が明けたら夫婦になる」という起請文をもらった三人組が「騙された」と知って見世に乗り込んでいく『三枚起請』。師匠の春風亭一朝が得意にしている演目で、ルーツは古今亭志ん朝の型。一之輔もそれをそのまま継承しており、目立った変更は加えていないが、同じ台詞でも一之輔が演じる人物たちの個性が見事に“一之輔落語”になっているので新鮮に楽しめた。一之輔がよくやるタイプのハジケた落語とは一味違う、こういう廓噺を艶っぽく演じられるあたりに一之輔のスケールの大きさが表われている。
三三の一席目『法事の茶』は「よくよく念入りに焙じてから湯を差すと不思議なことが起こる茶葉」を入手した男の噺。その“不思議なこと”というのが「会いたい人に会える」ことだとしていろんな落語家の物真似をしたりする“飛び道具”として用いる古今亭菊之丞のような演出が馴染み深いが、三三が演じたのは「茶碗の中から梅が咲いてウグイスが鳴く」という不思議な現象で、サゲそのものは従来と同じだが、そこへ行くまでの過程が従来よく知られている型とはだいぶ違っていて新鮮。三三の“普通に演じて面白い”落語の実力が存分に発揮された珍品。
貧乏長屋の願人坊主が死期を悟り、貯め込んだ金を餅に包んで飲み込んでしまうのを見た隣人が、死体からその金を取り出して自分のものにしようと画策する『黄金餅』は三遊亭圓朝作と言われる江戸落語で、古今亭志ん生十八番。立川談志が志ん生をベースに自らの十八番に磨き上げた他、志ん朝もシュールな展開に持ち前の明るさをブレンドして楽しく聞かせたが、現代ではこの噺を得意とする演者は見当たらない……と思っていたら、遂に三三がこの噺を自分のものにした! 三三の飄々とした語り口が陰惨さを一掃し、バカバカしい噺として安心して楽しめる。「こういうやり方があったか!」と目からウロコの名演だ。『法事の茶』もそうだが、最近の三三からは“一皮むけた”円熟味を感じる。これからの柳家を背負って立つ存在としてますます重みを増していくだろう。