2025年11月28日(金)「J亭スピンオフ 柳家三三・春風亭一之輔 大手町二人会」@日経ホール
演目は以下のとおり
柳家小はぜ『蔵前駕籠』
柳家三三『法事の茶』
春風亭一之輔『ねずみ』
~仲入り~
春風亭一之輔『ふぐ鍋』
柳家三三『高田馬場』
開口一番は柳家はん治門下の二ツ目、柳家小はぜ。正攻法の江戸落語をきっちり聴かせる演者で、追いはぎが横行する幕末の江戸で吉原に向かう“女郎買いの決死隊”の噺を軽快に演じた。二ツ目とは思えない堂々たる高座で、先人たちの高座を彷彿とさせる。
三三が一席目に演じた『法事の茶』は、よく焙じて湯をかけると不思議な現象が起こる茶の葉の噺。従来は幇間が若旦那に「会いたい人に会えるお茶です」と言って芸人や役者を出してみせ、若旦那が馴染みの花魁を出そうとして失敗する噺で、古今亭菊之丞は歌右衛門や三代目金馬、三代目柳好、八代目文楽、六代目圓生、八代目正蔵、立川談志といった名人たちの達者な物真似を披露して喝采を浴びている。ところが三三は隠居が八五郎に“梅に鴬”を見せるという趣向。初めて三三の『法事の茶』を見た時、「この噺にこういうやり方があるのか」と驚かされた。軽い長屋噺を気軽に楽しませる楽しい高座だ。
一之輔が一席目に演じた『ねずみ』は左甚五郎の逸話。浪曲ネタを三代目桂三木助が落語にしたもので、今では柳家さん喬や立川志の輔をはじめ、多くの演者が手掛けている。一之輔の『ねずみ』は三遊亭兼好の型を踏襲したもので、ねずみ屋の卯兵衛が虎屋との因縁を自ら語るのではなく友人の生駒屋が語るという設定は兼好が考案した秀逸な演出。一之輔はさらにメリハリを付け、笑わせながらも要所では人情噺らしい語り口を駆使して爽快な後味を残す。
一之輔が二席目に演じた『ふぐ鍋』は上方のポピュラーな演目。今では「フグに毒がある」ことを恐れながら食べる人間はいないが、それを今の観客に楽しく聞かせる演者の腕が問われる噺だ。一之輔はそれ自体が最高に面白いのだが、特筆すべきは「鍋の〆の雑炊の美味しい食べ方」を熱く語るくだり。時代考証を無視して嬉しそうに雑炊を作ってそれを美味そうに食べる一之輔を見ていると今すぐ雑炊を食べたくなる。『味噌蔵』の“カツ煮”のくだりと並ぶ、一之輔ならではの“美味しい脱線”だ。
三三の二席目は途中までは『蟇の油』かと思わせて仇討の噺へと転換していく『高田馬場』。三代目金馬の得意ネタで、志ん朝が演じていたの観て以来ほとんど出会うことがなかったが、近年は三三が蘇らせてくれた。三三は『蟇の油』も持っており去年の「J亭」でも披露していたが、『蟇の油』はいろんな演者が手掛けているのに比べて『高田馬場』は今では珍しい噺になってきているので、三三が見事に演じてくれているのが嬉しい。蟇の油売りが仇に出会って放つ「やあ珍しや、汝を討たんと一日千秋の想いを成したる所、ここで会うたが盲亀の浮木、優曇華の花待ち得たる今日ただ今、いざ尋常に勝負」台詞は落語ファンには『花見の仇討』でお馴染みのフレーズだが、もちろん芝居の決まり文句。講談じみた展開と軽やかな落語らしさを自在に操る三三の巧さが聴き手を引き込む。
演じ手の少ない噺を普遍化する三三、お馴染みの噺を新鮮に聴かせる一之輔。方向性は違えど共に“現代における古典落語の可能性を広げる”という共通項を持つ二人の対比の妙を満喫できる素敵な二人会だった。
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