突然ですが、福岡の星がきれいな場所で育った私は、東京のとある場所に偏見を持っておりました。その名も…
「渋谷」
渋谷の街にはムキムキの外人さんが無駄に徘徊(はいかい)し、ガリガリのお兄ちゃんがチェーンを引きずり歩き、短めのスカートをはいたコギャルたちが地べたに座りながら唾を吐く。
渋谷はそんな場所だと思っておりました。
ですから、上京したときも渋谷には近づかないように生きてきましたが、もちろんそんな偏見はどこかへ消し去り、今では定期的に通う街となっております。その理由はただ1つ。
おいしい焼き鳥屋さんがあるから。
今日はそんなお話。
出会いは渋谷で一席申し上げた帰り道、湧き上がる空腹感を楽しみながら駅まで歩いておりました。
「さて、今日は何を食べて帰ろう!」
遊園地を歩いているような表情であれこれお店を物色しますが、どうも決め手にかける状態(皆さまもご経験があるのではないかと思います)。
気がつけばもうすぐ駅に到着しそうなところまで来ており、「結局牛丼屋さんに入っちゃいそうだなぁ」なんて思っているところに、それは突如として現れました!
鼻先をかすかに刺激する香ばしく甘い匂い。
不意に湧き出るよだれ。
しかし、その匂いの元は遠くにあるらしく、現れては消え、また現れては消える。
歩けば歩くほど匂いが濃くなっていきます。焼き鳥屋だと確信すると同時に、驚くべきは匂いの濃さがすごいんです。まだお店が見えていないというのに通常の焼き鳥屋さんの店先くらい香ってくるのです!
目線の先には十字路。その左側から明らかに煙があふれ出しています。絶対にあの角を曲がった所にお店がある。
お店を見つけたうれしさと濃くなる匂いに、猛烈な空腹感! 自然と早歩きになっており期待に胸を膨らませ、十字路を左に曲がる!
火事でもあったのかと見間違うような量の煙! しかしこの煙が物すごくおいしい! もう煙の段階でおいしい!
やはり店先の匂いが半端ではない!
袋に詰めてAmazonで売れば…。まぁ、流石に誰も買わないでしょうが。
年期の入っていそうなたたずまいのそのお店には大きな窓があり、その中には煙に巻かれながら焼き場に立つ職人の顔。窓の外には立ち飲み用のカウンターが付いており、焼き場の職人と窓越しに向かい合う1人のおじさんの背中。それを世界一おいしい煙が包んでいる!
せっかくなので煙まみれのカウンターでいただくことにしました。焼き鳥(もちろんタレ! その匂いに釣られてきたのだから!)を2本と生ビールを注文。
まずは、ビールが来たので一口。労働後のビールはうまい! 異論は認めない!
しばらくして焼き鳥が到着。かなり大ぶりだ。通常の串の2倍はある。
1本の値段が少し高いのだがこれならまったく文句はない! タレに包まれた串の前で人間は理性など保てない。
口いっぱいに頬張る。
ほわぁ〜〜〜〜〜!!!! うめ〜〜〜〜〜!!!
プリンプリンのもも肉の歯応えが良い! この大きさだからこそ味わえる食感!
そして何よりタレがもう、本当においしい! 甘すぎずサラッとしていて、それなのにコクがある! タレをつけたい。もっとタレをつけたい。いや! タレを飲みたい!
ふとビールが目に入る。
やっちゃうのか? あの禁断の組み合わせをやっちゃうのか!! やっちゃおう!!! ビールを勢いよく流し込む!!!
うわーー!!!!
ドーパミン祭りだ〜〜〜!!
「お母さん。今日も僕は幸せです」
煙に巻かれながらそんなことを思うのであった。
「鳥竹 総本店」
6月21日からお酒の提供もしているそうです。
大手を振って飲みに行くのは気が引けるところではありますが、
例えば、無駄に徘徊をしたり、例えばチェーンを引きずったり、例えば地べたに座ったりなんかしないのであれば、自分へのご褒美のことを不要不急の外出とは言わないと僕は思うのです。
乾杯!