【二つ目グルメ】「買い食いの魅力」 昔昔亭昇

「買い食い」という言葉を辞書で調べてみました。要約しますと、「主に子供が店に立ち寄って食べ物を購入し、家の外で食べること」だそうです。

駄菓子を買ってみんなで食べるだけであんなに楽しかったのはなぜでしょうか。しかし!! 大人には大人の買い食いを楽しむ方法があるはず!

本日はそんなお話。

先日、仕事終わりで日比谷を歩いておりましたら目に入ったのは長蛇の列でした。

こんなご時世でこれほどの行列ができるのはどんなお店だろうと思い、看板をのぞきますと、「Tim Ho Wan」という文字が。香港でミシュラン1つ星に輝く点心専門店とのこと。

気になる。実に気になる。

お恥ずかしながら、点心専門店なるお店には今まで入ったことがありませんでした。

ぜひ入ってみたいところではありますが、この長蛇の列の後ろに着くにはあまりにもおなかが減っていました。悩んでいると、お持ち帰り専用の窓が設置されているのが見えました。

ノックしてみると、店員さんが元気にあいさつをしてくださり、お持ち帰りの待ち時間を伺うと、「ベイクドチャーシューパオでしたらすぐにご用意できますよ!」と言う。

ベイクドチャーシューパオ?

え? ベイクドチャーシューパオ?

ベイクドはチーズケーキで聞いたことがあるぞ。確か、「オーブンで焼く」という意味だ。

チャーシューはおそらくあのチャーシューのことだろう。

パオ…、パオ!!

「好き」を逆さにすると「キス」。キスは好きな人とする…など、似たような言葉が偶然同じような意味を持つことがあります。

昔のローマ教皇の選び方をご存じでしょうか。小さいころ、熱心なクリスチャンである祖母から聞いたお話ですが、枢機卿などが1カ所に集まり、選挙によって決められるそうで。それは満場一致するまで続けられ、奇跡が起こるまで途方もない時間をかけて選出していたそうです。その会議の名前が「コンクラーベ(根比べ)」というそうで、世界の言葉には不思議な偶然もあるものですが、それでも「パオ」は分からない! まぁ、いったん、それは置いておいて…。

3個セットのみの販売ということで、お会計を済ませた後、細長い紙製の箱に入ったベイクドチャーシューパオを受け取りました。

お店の前にはちょうどいい広場があり、ソーシャルディスタンスを保ちながらベンチに腰掛けます。箱の中からはベイクドチャーシューパオの熱気が伝わってきます。

さっそく開けてみると、そこには小さなメロンパンのような物体が3つ。点心専門店というふれ込みからは全く想像できない見た目です。どの角度から見てもメロンパンなのです。

なんでメロンパンなんだ。おなか減ってるのに! そんなイラつきを抑え1口かぶりつく。

うんまぁー!!!

外側はサクサク! 生地はふわっふわふわ! 餡(あん)はとろっとろ!

メロンパンのような優しい甘味が口の中にごあいさつをした後、生地の柔らかさに驚かされる。

次に来るのは甘めの餡。小さめに角切りにされたチャーシューは、しっかりと噛むことができるが決して硬くはない。

最後にハッカクの香りが甘い余韻を残す。「甘い」という感覚が3つ続くが、しかしこれがなぜかおいしい。おやつとしてではなく、しっかり食事としてもおいしいのである。

無駄なものがひとつもない。手で持った感触、食感、味、香り、大きさ。このすべてが「おいしい」というもののために働きかけている。

それを外のベンチに腰掛けて食べている。1人で食べるということを寂しいととらえればそれまでだが、僕はあえて子供たちに胸を張って言いたい! 「こんなうめぇもん、お前ら知らねぇだろぉ! 大人は楽しいぞー!」と。

そう。それはまるでパオでした。紛れもなく、パオでした。パオが何かって?気になったそこのあなた。

あなたは今、あなたなりのパオを探す扉の前に立っているのかもしれない。

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