【妄想亭日常】 「落語のお稽古」 弁財亭和泉


落語家は新しい噺を覚えたいとき、その噺を持ちネタにしている師匠にお願いに行き、一対一で口伝(くでん)でお稽古をしていただきます。

大昔の落語の稽古は三遍稽古(さんべんけいこ)という方法で、師匠から3日間同じ噺を聴かせてもらい、4日目には覚えて、その師匠の前で披露するという、かなり過酷な方法でした。

テープレコーダーなどの手軽に録音ができる機械が普及してからは、一度だけ対面で師匠が噺を聞かせてくれて、それを録音させていただき、覚えたら「あげの稽古」をお願いする方法が主流になりました。

ちなみに「あげの稽古」というのは、師匠の前で教えていただいた噺を披露し、直していただいたり、アドバイスをいただくお稽古で『お客さまの前で披露してもいいよ』とお許しいただくための試験のような時間でもあります。

録音ですが、初めから当たり前のように録音機を出すのではなく『本当は三遍稽古だとわかっておりますが…』という気持ちを込めて「録音してもよろしいでしょうか?」とお伺いをたててから出すのがお作法だと先輩から教わりました。お稽古で録音を断る師匠なんていませんが、必ず伺うようにと言われました。

最近、後輩が若手の子にお稽古をしたとき、「動画を取ってもよろしいでしょうか」とスマホを出され、驚いたと言っていました。さすがに動画は断ったそうです。

この話を聞いたとき、私も驚きました。ですが、もしかしたら三遍稽古から録音に変わっていったときも初めはこんな感じだったのかもしれません。

将来、お願いはSNSのメッセージで、お稽古は師匠のYouTubeチャンネルにあがっている動画で好きな時間に、あげの稽古はリモートで。

そんな、お稽古方法が主流になるかもしれません。

そんな風になったら、ちょっと寂しいなと思いましたが、よく考えてみたら某新作落語の師匠にお稽古をお願いしたとき、「CD出てるからAmazonで買って」と言われたのを思い出し、時代とともに変わっていくって自然なことかと妙に納得したのでした。

こちらは産経らくご会員限定ページです

ログインもしくは、 産経らくご会員に登録して閲覧ください。

  • 人気落語家のコラム・限定コラム
  • チケットの先行販売・会員限定割引
  • 毎月抽選で、落語グッズをプレゼント!
  • 年間約40本 落語ライブ動画が見放題に!

サービス詳細を知る

TOP