【妄想亭日常】 「楽屋の気」 弁財亭和泉


寄席の楽屋では、見習い期間を終え、楽屋入りした前座さんたちが日々修行に励んでおります。前座の基本は気働き。楽屋の師匠方が気分よく過ごすためにはどうすればいいか。それを考えながら行動することが、一番の仕事であり、修行だといわれています。

ですから、新米真打の私でも楽屋では前座さんたちが「師匠、師匠」と世話を焼いてくれます。荷物を運んでくれて、上着をハンガーにかけてくれます。座布団に座れば、お茶が出てくる。着付けも手伝ってくれますし、脱いだ着物も畳んでくれます。はなをかんだら目の前にゴミ箱がスッと出てきたり。

自分も前座のころにやっていたことですが、やってもらう側になると、ちょっと恐縮してしまう至れり尽くせりです。いろいろ世話を焼いてくれるのはうれしいけれど、新人の前座さんがもたもたしているときは、正直自分でやった方が早いなと思うこともあります。

ですが、寄席ではこの楽屋ホスピタリティを断る人はほとんどいません。この修行がどれだけ大切か、皆わかっているからです。

「子ほめ」という落語の中に「掃除が行き届いておりますなぁ」というセリフが出てきます。「きれいに掃除してますね」と表現するより、部屋の隅々までピカピカのイメージです。

前座修行中は気働きで「気が行き届く」感覚を身に付けるチャンス。

前座のころよく、「気をつかってないように気をつかえ」と言われました。気をまわし過ぎて相手をせかさないように、だからといって間を取りすぎて出遅れないように。全方向に気を研ぎ澄ます。

落語家にとって会場のお客さま全員に「気が行き届く」感覚はとても大切です。

時々、ベテランの師匠方が楽屋で前座さんが気働きしやすいように、タイミングをとっている姿を見かけたりします。

前座さんたちは気がついているのか? 気がついているけど、気がつかないふりをしているのか?

気をつかっていないように気をつかう修行の場所。

楽屋に流れる気は温かいです。

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