【妄想亭日常】 「寄席の口上」 弁財亭和泉


時々、楽屋で「コロナ禍真打」という言葉を耳にするようになりました。意味は、読んで字のごとく。コロナ禍中に真打昇進した人たちのことです。

「コロナ禍真っ最中真打」の落語協会春の5人の真打昇進披露興行は上野、新宿、浅草、池袋を終えて、後は五月中席の国立演芸場を残すのみとなりました。できる限りの感染症対策をして、おかげさまで興行中、新真打ちは誰一人欠けることなく元気に過ごしておりました。

真打昇進披露興行の見どころといえば、豪華な出演者と新真打ちのトリの高座、そしてなんと言っても仲入り後の披露口上です。

ご贔屓(ひいき)さまから贈られたお祝いの品や後ろ幕で飾られたにぎやかな舞台で、新真打ちを中心に、新真打ちを育てた師匠、理事の師匠方、黒紋付姿で5、6人がずらりと並んで、新真打ちへ順番にお祝いの言葉を贈ります。最後は寄席に居る全員、お客さまも一緒に三本締め。

なんともめでたい光景です。

緊張しながら臨んだ上野鈴本演芸場の初日。口上ではなく、大喜利なのではないかと思うくらい、笑いがおこったり、感動したり。とにかく芸人魂にあふれた温かい空間でした。

たくさんの「おめでとう」が詰まった三本締めの中心で、真打になった喜びをかみしめつつも、ふと一瞬だけ複雑な気持ちになりました。

それは、この「おめでとう」の中には「二ツ目気分は今日でおしまいです」が含まれていて、学生から社会人になったときにも味わった感覚。けっしてネガティブではなく、厳しくも優しく背中を押してもらっているような、心が動いた瞬間と言いましょうか。ちょっと前にはやった若者言葉だと、エモい感じ。

「真打になることがゴールではなく、真打になってからが落語家人生のスタート」

前座のころから楽屋で散々聞いた言葉の本当の意味を知ることができた令和3年の春でした。

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