気づけば宵の口、まずは序の口、熱燗つまんでおちょぼ口…。
木枯らしが吹く、ある冬の日のこと。
熱燗が恋しくなり、鶯谷にある老舗の居酒屋の暖簾をくぐりました。
いつものようにカウンターで飲んでいたら、隣りに55歳くらいの男性が一人酒…。
「何を飲んでるんですか?」
「こんな寒い夜は、熱燗に限りますよ」
「私も昨日から熱燗飲みたかったんですよ」
「どうですか? 一杯?」
「いただきます!」
差しつ差されつしながら、自分が落語家であることを告白し、次回の独演会の勧誘を…。
これが磯川さんとの出会いでした。
この時誘った独演会で私の落語を気に入っていただけたようで、その後毎月、独演会と打ち上げに必ず参加してくれるようになりました。
そんなある日、事件が起きました。
プライベートで2人で飲み行こうという話になり、飯田橋の飲み屋へ向かいました。
ところが、なぜか私がいろいろ話しかけてもほとんどしゃべらず、気まずい空気だけが流れていく。
普段から物静かではあったけど…。
1時間近く経ったころ、どちらからともなくお会計…。
何かしくじったかな…。
ようやく、磯川さんが重たい口を開けてこう言いました。
「只四楼さん、もう一軒行きましょうか?」
なんでだよ!
どこで盛り上がったんだよ!
心の中で突っ込む俺に、
「行きつけがありまして」
と謎の笑み。
(いや待てよ。行きつけ!? そっか、そこでお店の方を紹介してくれるんだな。チケットが売れるかも!)
そう思い、磯川さんについて行くと、そこは都会の喧騒を忘れさせてくれる地下のバー。
モダンでクラシックな店内。
お、大人の雰囲気だ。
きっと紹介していただける方もいろんな物事に関心があり、知的な方なのだろうと想像が膨らむ。
カウンターに座ること1時間…。
また、一言もしゃべらーず!
何がしたかったんだー!(怒)
そんな無口な磯川さんですが、鶯谷の居酒屋で出会ってから3年間、ずっと毎月、俺の独演会に通い続けてくれています。
そして打ち上げも毎回参加し、毎回隅の方に座り、一言もしゃべらず…。
そう。
人それぞれ楽しみ方はある。
毎月、独演会にも打ち上げにも参加しているのは、楽しいからに違いありません(そう信じています…)。
さぁ、今夜ももう一軒行きましょうか?笑
【本日のチケット残数】100枚