【直球&曲球】お母さんの週末 春風亭一之輔 

いま、地方の仕事に向かっている。天気も良い土曜日のターミナル駅は混雑がすごい。
 最近よく見る、子供がまたがって乗れる犬のようなカタチのキャリーケースが、私の左足にドーンとぶつかった。父親はデカいヤツ、母親は子供がまたがってるヤツ。2人でキャリーを引いている。
 お母さんは前に赤ん坊を抱きながら。追いかけてって「謝んなさい!」と言いたいし「子供! 甘えるな! 歩け!」と蹴飛ばしたいところだが、あいにく急いでるので今日は勘弁してやる。
 みどりの窓口の行列がメチャクチャで、指定席チケットを変更したかったのだが無理だった。窓口は5つあるうち3つのみ稼働。人手不足なのか、あえてなのか、もちろん自動券売機も行列。しかたなく東北新幹線ホームの自由席の列に並ぶ。
 列の後方に、5歳と3歳くらいの子供を連れたお母さん。電車はほぼ満席で私はなんとか座れたが、発車と同時にデッキから「座りたいー、座りたいー!」と子供たちの叫び声。自動ドアが開くたびに2号車に響き渡り、「静かにしなさいっ!」と母親が怒鳴る。車内はいたたまれない空気。
 私の乗車時間は約40分。右隣が空いていて、私が立てば2人は座れる。「座りたいー!」。うるせえな、もうわかったよ。俺がいけにえになろうじゃねぇか。
 デッキに行って「すぐ降りるんでよかったらどうぞ」とお母さんに声をかける。「いや、いいです」「座りたい!」「どうぞ!」「大丈夫ですので!」「座る!」「どうぞどうぞ!」
 なかば無理矢理に親子を座らせる。実は今日は完全に遅刻なのだ。なぜか出発時間を遅く勘違いしていた。時間通りに家を出てればこんなことにならなかったのに。でもデッキで立ちながら原稿が書ける。
 終わりが見えた頃、宇都宮に着きさっきのお母さんがお礼に。なんだかんだで心持ち良く収まり仕事に向かった。皆さんがすてきな週末と、ハッピーな母の日を過ごせましたように。

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