【直球&曲球】試されている関心 春風亭一之輔 

 映画『関心領域』を見た。アウシュビッツ収容所に隣接した豪邸に住む収容所所長、ルドルフ・ヘス一家の日常を淡々と描くのだが、塀の向こうから常にいろいろな「音」が聞こえてくる。
 何かを作動させるような轟音、それを指示するような高圧的な声、誰かの泣き叫ぶ声、時折響く乾いた銃声や犬のほえる声。背後の数本の煙突からは煙が見える。観客は収容所でのおぞましい行いを想像させられるが、ヘス一家は普通に生活している。
 まひして感じなくなったのか、もとより感じないのか、あえて無関心を装っているのか…それは観客の想像によるところ。ルドルフの義母はこの家を訪れた数日のうちに、その環境に耐えられず家族に黙って姿を消してしまう。観客も耳を塞ぎたくなるとてもキツい映画だが、耳をそばだててのめり込んでしまった。
 他人に薦めると何人かに「絶対に見たくない」と拒否された。もちろん映画を見る見ないは自由。しかし現実として今も世界中でそれに近い悲劇が起こっている。それに無関心でいるか、少しでも思いやれるかを、この映画を介しわれわれが試されているような気がする。
 もうひとつ、今「試されている」気がするのは東京都知事選。20日に告示され、街中に立候補者のポスターが貼られ始める。立候補予定者総数は約50人の見込みという異例の事態だが、どの人も決め手を欠く印象を受ける。
 失礼ながらその出馬の理由も面白半分? 売名? 承認欲求? 何らかの利益目的?とネガティブなイメージが浮かび辟易してしまうのだが、「誰がなっても変わらない」「自分の一票じゃどうにもならない」と無関心を決め込むと、案外と心が落ち着くのが不思議だ。
 現実から目を背けるのは楽だが、気づいたときには選挙は終わり、取り返しのつかないことになるかもしれない。絶対に関心を保ち7月7日は投票に行く。それが都民の権利であり「責任」。
 『関心領域』の塀の向こうで起こったことは事実であり、これからも起こる可能性はあるのだから。

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