広瀬和生の「J亭を聴いた」第9回大手町二人会 三三・一之輔(令和元年9月分)<100>

2019年10月25日|広瀬和生

「J亭スピンオフ企画 隔月替わり二人会」、9月19日(木)は「三三・一之輔」二人会。演目は以下のとおり。

春風亭正太郎『道具屋』
春風亭一之輔『化物使い』
柳家三三『藁人形』
~仲入り~
柳家三三『短命』
春風亭一之輔『浜野矩隨』

 

開口一番は来年春に真打昇進して「九代目春風亭柳枝」の大名跡を襲名することが決まっている正太郎。「おじさんの商売は道具屋だろ」「そのまんまじゃねえか」で始まり「甘そうだ」と客に言われたノコギリを与太郎が「甘い!」とベロベロ舐めて血まみれになる驚きの演出を交えた『道具屋』は鉄砲の値を訊かれて「ズドーン」でサゲ。

一之輔の一席目は『化物使い』。人使いの荒い吉田のご隠居のところで働き者の杢助が奉公を始めてあっという間に三年、化物が出る家に引っ越すと聞いた杢助が暇をもらい、最初の晩に出てきたのは一つ目小僧。「元気よく挨拶しろ! ベエじゃなくて! ちゃんと働け! 酷い目に遭わすぞ!」と一つ目を恫喝し、次から次へと容赦なく小言を浴びせる吉田の隠居が凄く生き生きとして楽しそう。次の夜は大入道が出てくるが、動じることなく「今日はおまえの番か?」とこき使う。逆らう大入道の“弁慶の泣き所”を連打する隠居の子供っぽい動きが可愛い。

いつの間にか大入道が消えてのっぺらぼうの女が部屋の隅に現われると「なんかいいねえ」と微笑んだ隠居が「お嬢さん、ちょっとこっちへおいで」と言うと「大きな声出しますよ」と警戒するのっぺらぼう。「そんなつもりじゃないよ! ウヌボレやがって!」とキレた隠居が「好みの顔にしてやる!」と顔に落書きしようとするのが可笑しい。翌日、狸が出てきて泣きながら「お暇をいただきたいと思いまして」でサゲ。

代わって高座に上がった三三はマクラで“糠”の話をして「神田の龍閑町の大きな糠屋の一人娘で“お熊”という……」と『藁人形』へ。地の語りでお熊が千住の若松屋という女郎屋で一番の売れっ子になる経緯を語った後、西念という願人坊主とお熊との会話へ入っていく。「あんたのことが父親のように思える。年季が開けたら身請けされて絵草子屋を持たせてもらうことになってるから、あんたを引き取って親孝行の真似事がしたい」と言って、西念が貯め込んだ二十両を言葉巧みに巻き上げるお熊。

やがて、風邪で長く寝込んでいた西念がお熊を頼って訪ねると「二十両? 妙な言いがかりはおよし」と豹変。身請け云々は全部嘘だったと聞いて掴みかかった西念は叩き出された。血だらけで長屋に戻った西念は恨み骨髄、引きこもって出てこない。そこを訪れた甥の甚吉、火に掛けられた鍋から妙な匂いがするのが気になって仕方ない。西念から「中は絶対に見るな」と言われたが、留守にした隙に蓋を開けると、煮え立つ油の中に藁人形が……。

三三の『藁人形』は入船亭扇橋が演っていた型。そこに三三の個性を加えて磨きを掛けている。こういう怖い噺を演ると三三は本当に巧い。お熊の筋金入りの性悪女っぷりに震えが来る

仲入り後、再び高座に上がった三三は一転して滑稽噺の『短命』を。伊勢屋の一人娘のところに来る婿がみんな早死にをする理由を訊きに来た八五郎に「女の器量が良すぎて暇がありすぎると短命だ」と隠居は遠まわしに説明するが、八五郎は全然ピンとこない。三三は、ちゃんと教えようとする忍耐強い隠居と、理解したいけど察しが悪い八五郎の二人の会話をリアルに描き、それを見ているとジワジワと可笑しさが込み上げてくる。長屋に戻ってからのオウム返しも、女房を殊更に下品に描くのではなく、ごく普通の夫婦の日常として演じて程よい笑いが生まれる。師匠の小三治が「落語はこうあるべき」と説く“自然体の高座”を体現しているように思えた。

矩随が父の真似から脱して開眼する『浜野矩随』は三遊亭萬橘の秀逸な演出に一之輔独自の肉付けが全編に施されて大きく進化した。若狭屋の諫言に反発する未熟な倅を生まれ変わらせるために命を賭ける母の愛に打たれた。

一之輔のトリネタは『浜野矩随』。寛永の年度に腰元彫り(武具の装飾品の彫金)の名人と言われた浜野矩安は早死にし、息子の矩随が跡を継いだがどうにも巧くならない。芝神明の若狭屋甚兵衛という骨董商が矩随の作を義理ですべて一分で買い上げているが、「店に出したら暖簾に傷がつく」と全部ミカン箱に放り込んである。

ある日、矩随が三本足の馬を彫ってきた。これは「失敗作」とするのが通常の演出だが、一之輔の『浜野矩随』では「父の矩安が馬を三本足で彫っていた真似をしたもの」とする。三遊亭萬橘のオリジナル演出だ。今年一月の桂吉坊との二人会で一之輔は『浜野矩随』をネタ出し、萬橘と“ネタの交換”(互いに噺を教え合うこと)をして初演した。ちなみに一之輔が萬橘に教えたのは『茶の湯』だという。

若狭屋は「矩安さんは三本で彫っても四本足に見えた。お前はうわべで真似しているからダメなんだ」と一喝。すると矩随は「若狭屋さんは彫物師ではございませんから」と反論。「金を取れるものを彫れと言ってるんだ」と言う若狭屋に「私はお金のために彫ってるんじゃありません」と口答えする矩随の態度に若狭屋は「私の一分は金じゃないっていうのか!」と激怒。「お前が彫った河童狸を見てみろ! うちの小僧たちは『あれを見るとどんなに辛いことがあっても笑える』と言ってるんだ。お前は下手なんだよ。もうやめたほうがいい。一分やるから二度と来るな!」

ガックリと肩を落として帰宅した矩随が母に若狭屋での顛末を話すと、母は「ありがたいね、そう言ってもらえるのは」と落ち着いて受け止めた。

「若狭屋さんにそう言われて、お前はどうする?」
「彫物をやめます」
「やめて何をするの?」
「……何もできません」
「そう、だったら死になさい。死んで、おとっつぁんに頭を下げなさい。でも、おっかさんはお前が死ぬと悲しい。形見に観音様を彫っておくれ。おとっつぁんは観音様を信心していたから『恐れ多い』と言って、観音様は彫らなかった。お手本なんかないんだ。命を懸けて彫るんだよ」

三日三晩、飲まず食わずで矩随が彫りあげた観音様を見た母は、「これを持って若狭屋さんで三十両で売ってきなさい」と言い、矩随が井戸から汲んできた水を半分飲むと、残りを矩随に飲ませた。観音像を見た若狭屋は大喜びして三十両で買う。若狭屋はそれを父の作だと思ったのだ。自分が彫ったと言うと初めは信じなかった若狭屋だが、わけを聞いて「そうだったのか。ようやく自分を見つけたな」と褒めるが、出がけに水を半分ずつ飲んだと聞いて「それは別れの水杯だ!」と血相を変えた。慌てて駆けつけたが、母は自害していた。若狭屋は矩随に言う。「おっかさんは命懸けでおまえを生まれ変わらせてくれたんだ。一所懸命やらないと罰が当たるよ」

以来、矩随の評判は大いに上がり、矩随の彫ったものを求めて若狭屋の門前に行列ができるようになった。あるとき「どんな彫り損じでも金に糸目は付けない」と言ってきた客に河童狸を三百両で売ろうとすると、小僧の定吉が飛び込んできた。「それは売らないでください! それがなくなると、辛いことがあったときに立ち直れなくなる」でサゲ。萬橘の型をベースとしながら全編に一之輔らしい台詞回しを盛り込んだ、見事な高座だった。

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《もう一度見たい名演》柳家喬太郎「肥辰(こえたつ)一代記」(2021年8月7日、「第六十八回大手町落語会」より)

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《もう一度見たい名演》桃月庵白酒「粗忽長屋」(2021年9月30日、「第19回J亭スピンオフ企画」より)

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《もう一度見たい名演》春風亭一之輔「浜野矩随(はまののりゆき)」(2020年7月29日、「第13回J亭スピンオフ企画」より)

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配信期間:2024年6月1日(土)00:00~2024年6月30日(金)23:59 出演者:春風亭一之輔
J亭スピンオフ企画 32 白酒・一之輔 大手町二人会

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配信期間:2024年5月23日(木)19:00~2024年6月20日(木)19:00 出演者:桃月庵白酒、春風亭一之輔 (トリは桃月庵白酒)
神田連雀亭オンライン寄席2024年五月昼席

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配信期間:2024年5月23日(木)13:30~2024年6月30日(日)13:30 出演者:金原亭馬久 柳家花飛 三遊亭ふう丈 桂伸しん
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