「J亭スピンオフ企画 隔月替わり二人会」、7月25日(木)は「白酒・三三」二人会。演目は以下のとおり。
昔昔亭全太郎『やかん』
三遊亭わん丈『近江八景』
桃月庵白酒『親子酒』
柳家三三『締め込み』
〜仲入り〜
柳家三三『お化け長屋』
桃月庵白酒『松曳き』
開口一番の全太郎が高座に上がったのは開演時間前の6時50分。よく聴く『やかん』とは一味違うクスグリが色々とあり、口調も達者で面白い。前座とは思えないくらいだ。
ゲストのわん丈が披露したのは『近江八景』。「八景に膳所はない」という言葉を知らないとサゲの意味がわからないのであまり演り手のないネタだが、滋賀(近江)出身のわん丈はこれを得意にしている。マクラで近江八景の説明が必須で、独演会などでは巨大な扇子に描かれた地図を用いることもあるが、もちろんこの日は口頭のみ。それでも「説明そのものが芸」になっているから立派だ。噺自体は、ある男が花魁からもらった手紙を大道の易者に見せて、この女と所帯を持てるか占ってもらう、というもの。ここにもわん丈は秀逸なギャグを入れている。
白酒の一席目は『親子酒』。息子と禁酒の約束をしたものの酒が飲みたくて仕方ない父親が女房をなだめすかして「一杯だけ」の約束で飲むことになるわけだが、そこに至るまでの女房との会話(「愛してるよ、婆さん。だから一杯だけ」「本当ですか」「本当だよ、一杯だけ」「……そっちじゃなくて」等)が白酒らしくて楽しい。ベロベロになった父と子の会話にアドリブで時事ネタ(吉本問題)を盛り込んで笑わせた。
やがて、風邪で長く寝込んでいた西念がお熊を頼って訪ねると「二十両? 妙な言いがかりはおよし」と豹変。身請け云々は全部嘘だったと聞いて掴みかかった西念は叩き出された。血だらけで長屋に戻った西念は恨み骨髄、引きこもって出てこない。そこを訪れた甥の甚吉、火に掛けられた鍋から妙な匂いがするのが気になって仕方ない。西念から「中は絶対に見るな」と言われたが、留守にした隙に蓋を開けると、煮え立つ油の中に藁人形が……。
三三の一席目は『締め込み』。留守宅に入った泥棒が荷造りをした途端に亭主が帰ってきたので台所の揚げ板の下に隠れ、続いて帰ってきた女房と亭主との夫婦喧嘩の仲裁に入る噺。亭主の勝手な言い草に腹を立てた女房が「あたしと一緒になったときのことをお忘れかい」と、昔どれだけ強引に自分を口説いたかを微に入り細に入り立て板のごとくまくしたてる場面が一番の聞かせどころで、三三はここの台詞を大幅に増やし、持ち前の流暢な語り口で楽しく聴かせるが、その喧嘩に至る前に女房が「やたらとベラベラ喋る女」であるという念入りな描写があるのが特徴的。泥棒の実直そうな感じも泥棒らしくなくて可笑しい。
仲入り後、三三の二席目は『お化け長屋』。1人目の客に語る杢兵衛の怪談が本当に怪談らしいのが三三ならでは。この「怪談らしさ」を2人目の乱暴な男にメチャクチャにされる落差の可笑しさが三三の『お化け長屋』の真骨頂。この乱暴な男が「大家は肥後の熊本で3年寝たきり」と聞いて「見舞いに行けよ!」と怒るのが妙に可笑しい。この男はあらかじめ「人の話を黙って聴くのは嫌いなんだ、手っ取り早く言葉を詰めて短くパッパッとやれ!」と宣言、なのに怪談らしさを保とうとする杢兵衛に「言葉の無駄だ」と怒る前にいきなり目を突いて杢兵衛が「いたーいっ!!」と喚くのがバカバカしくて最高。「おかみさんの胸元に手を……」という話になると喜んでにじり寄って杢兵衛の膝に乗り顔をスリつける乱暴な男のリアルにスケベそうな感じも三三ならでは。いきなり怪談口調に戻る杢兵衛に「お前、よくその口調に戻れるな」とツッコミを入れるのも笑った。「ゴーン」とか「チーン」とか先回りされて泣きべそをかく杢兵衛が可愛い。吉本ネタを入れたり『締め込み』と泥棒が重なることを指摘したりとアドリブも豊富。もともと三三の『お化け長屋』はハジケた可笑しさのある演目だったが、ますます磨きが掛かった。
三三の『お化け長屋』は「上」まで。白酒は『お化け長屋』を必ず「下」まで通しで演るので、ひょっとしたら「下」をリレーするかとも思ったが、さすがにそれはなく、時間が押し気味の中で高座に上がった白酒が演じたのは、時間がない時に短時間で集中的に爆笑させる鉄板ネタ『松曳き』。ケタ外れの粗忽者二人(殿と三太夫)の会話が、とにかくバカバカしくて爆笑また爆笑。「八衛門病欠にて倅、八衛門まかりこしましてござります」「面白い、親子同名か」「何が、にござりますか」「名前じゃ」「田中三太夫にござります」「そうではない、親子同名かと訊いておる」「何が、にござりますか」「名前じゃ」「田中三太夫にござりまする」の繰り返しが最高! この「真面目な顔をして暴走する」三太夫のキャラは白酒だからこそ。何度となく聴いているけど新鮮に笑える白酒十八番だ。