12月1日(金)、「J亭落語会 桃月庵白酒独演会」。演目は以下のとおり。
桃月庵はまぐり『湯屋番』
桃月庵白酒『万病円』
桃月庵白酒『時そば』
~仲入り~
柳家ほたる『湯屋番』
桃月庵白酒『おかめ団子』
JTホール最後の白酒独演会。
開口一番は白酒の一番弟子はまぐりが金原亭のお家芸ざるや』を、先代馬生や五街道雲助と同じく「金庫ごと持っておいで」まで。ちなみに2016年1月のこの会で白酒はその先まで演って「叩いたって潰れるようなざる屋じゃございません」でサゲた。
白酒の一席目は、「権力を持っている人間は周りにとって厄介な存在」ということを実体験に絡めたマクラで語ってから『万病円』へ。江戸の町人にとって、権力を笠に着る侍は面倒くさくて迷惑なもの。この噺の主人公はまさにその典型。銭湯では湯船でフンドシを洗って湯銭も踏み倒し、餅菓子屋では小僧に対して屁理屈を押し通して十六文の勘定を四文しか払わない。この横柄な侍が紙屋で一本取られ、「江戸の仇を長崎で」と薬屋の貼り紙に難癖を付けたものの、店主の機転にギャフン、というのがこの噺。「万病に効くとあるが、病は四百四病と言う。万もあるか」という言いがかりに対して店主は「疝(千)気」「産前(三千)産後」などとシャレで数え上げていく。白酒の『万病円』では、店主の「百日咳」に対して侍が「風邪は引くものだ、百を差っ引くぞ」と反撃、それに対して「臆(億)病というものがございます」と返すと「それは病ではない、足すわけにはいかん」「億がダメなら腸(兆)捻転がございます」でサゲる。本来のサゲ「腸満(兆万)があります」で、三代目三遊亭金馬はそれで演っていた。「腸捻転」は三遊亭圓窓が考案したサゲ。
白酒の二席目は『時そば』。一文かすめた奴の真似をしようという男が出会う蕎麦屋の情けなさが半端じゃない。男が呼んでも「借金取りかと思って」逃げて行くこの蕎麦屋、「家では子供がひもじいよぉ、ひもじいよぉと泣いて……このままじゃみんなで首くくるしかねぇな、って……相談に乗ってもらえますか」と愚痴をこぼし、男が「悪い時もあればいいときもあるよ、ほら、飽きずにやんなきゃダメだけよ、商いっていうくらいだから」と励ますと「飽きずにやってこのザマですよ」と吐き捨てる。屋号は「虎屋」。汚い丼は汁が漏れないのが不思議な「はてなの丼」。汁が冷たいのは急かした客が悪い、出汁は「怖くて訊けない」、太くてベトベトの麺、麩を薄く切る技術を麺に活かさない「芸惜しみ」……。『時そば』はいろんな演者が二人目の蕎麦屋の酷さを工夫していて、白酒もやはり独特なアレンジを施しているが、その蕎麦屋の酷さ以上に客のリアクションの可笑しさが際立っているのが白酒の見事なところだ。
仲入り後は柳家権太楼一門の二ツ目、柳家ほたるが『湯屋番』を「軽石で顔こすっちゃった」まで。若旦那のキザなキャラのデフォルメが特徴的だ。この若旦那が持ってきた手紙の「名代の道楽者ゆえ要注意」ってところに赤で二重に線が引いてある、というのは笑った。
白酒の三席目は『おかめ団子』。五代目古今亭志ん生の演目で、舞台となる飯倉片町の「おかめ団子」は実在した団子屋だが、もちろん実話ではない。
毎日おかめ団子を一つずつ買って帰る大根屋。病気の老母が団子を楽しみに待っているという。この大根屋、たまたま目にしたこの団子屋の一日の儲けを夜中に思い出し、「あの金があれば親孝行ができる」と魔がさして、開いていた裏木戸から団子屋の庭に忍び込む。と、娘のおかめが首をくくろうとしてるのを発見、大声で助けを呼ぶと、両親が大慌てで起きて来た。おかめは父親が決めた縁談が嫌で死のうと思ったのだという。
団子屋の主人に「それにしてもなぜこんな夜中にここへ?」と訊かれた大根屋、親孝行ができないので盗みに入ったと告白する。団子屋の主人は大根屋に同情し、「娘の命の恩人だ」と五両を渡して帰した。すると母親が「おかめと話したんですが、いっそあの大根屋さんにうちに入ってもらいましょう。おかめも承知です」と主人に提案、大根屋の人柄を知る主人も賛成する。「何よりあの人なら私たちを大事にしてくれますよ」「そうかい?」「そうですよ、商売が大根屋、孝行(香香)者です」でサゲ。
ここでサゲるのではなく「大根屋が養子に入って繁盛した」と人情噺らしい終わり方にする演り方もあるが、「盗みに入った大根屋を婿養子に」という展開が急なだけに、ここでストンと落としたほうが合点がいく。また、白酒は「以前からおかめは大根屋の人柄を知っていて縁談に納得している」ことを強調していて、これは気持ちいい。『井戸の茶碗』でも白酒は千代田卜斎の娘と高木がお互いに惚れていたという設定にしているが、こういうところに白酒のセンスの良さを感じる。そしてまた、田舎言葉でしゃべる大根屋が実に実直そうで、この展開に無理がないと思えるのが白酒ならでは。今年蔵出ししてきた演目だが、楽しい噺に仕上がった。