広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成29年9月 スペシャル3人会)<88>

9月28日(木)、「J亭落語会 白酒・三三・一之輔 スペシャル3人会」。演目は以下のとおり。

 

入船亭小辰『悋気の独楽』
春風亭一之輔『お見立て』
柳家三三『高砂や』
~仲入り~
桃月庵白酒『火焔太鼓』

今年いっぱいで虎ノ門JTホールでの開催が休止となるJ亭落語会。この会場でのスペシャル3人会はこれが最後だ。トップバッターは入船亭扇辰門下の二ツ目、小辰。妾宅に通う旦那に嫉妬する本妻が小僧の定吉にスパイをさせる『悋気の独楽』を達者に演じた。端正な口調とハジケた演技との振り幅に個性があり、その意味では師匠の扇辰に通じるものがある。辻占の独楽の場面で盛り上げてパッとサゲる、という当たり前のことができていない演者が意外に多いこの噺、小辰はそこをきちんと押さえていて好感が持てた。

続いて登場した一之輔はいつもの独演会同様、時事マクラで笑わせてから得意の『お見立て』へ。喜瀬川花魁が田舎者の杢兵衛お大尽を毛嫌いするあまり、喜助(若い衆)に「花魁は入院してる」と嘘をつかせ、お大尽が「見舞いに行く」と言いだすと「死んだって言え」と花魁は喜助に命じ、喜助は墓参りに行く羽目になる…というこの噺、一之輔は杢兵衛の田舎者っぷりを思い切りデフォルメして爆笑編に仕立てており、2014年9月のJ亭独演会でトリネタとして演じている。

『お見立て』は白酒も得意としていて、2012年4月に「白酒・三三・一之輔」の月替わり独演会形式でのJ亭がスタートしたことを記念して行なわれたスペシャル3人会では白酒が『お見立て』を演じていた。喜助が「花魁は死にました」と杢兵衛に告げるとき、白酒の場合は師匠の五街道雲助と同じく「扇子を脛の下に置いて座って体を揺すって脛の痛みで笑いを止め、お茶を目尻につける」というやり方だが、一之輔は「コヨリをこしらえて鼻に突っ込んでクシャミが出る寸前で止めろ」と喜瀬川に教わる。この、「クシャミの寸前で止める匙加減」を試行錯誤する喜助の可笑しさは「顔芸」を得意とする一之輔ならでは。杢兵衛の突出したキャラが印象に残りがちだが、杢兵衛や喜瀬川の強烈さを全身で受け止めてビクともしない喜助の強靭なキャラこそが、実は一之輔の『お見立て』の面白さの肝なのである。ちなみに、この日の一之輔は、杢兵衛に「お前が手紙を寄越せばよかった」と言われた喜助が咄嗟の機転で嘘をつく場面(ゲジゲジが通ったので杢兵衛からの書付を燃やした、という言い訳)をカットしていたが、それも自然な流れで、それによって面白さが損なわれることはなかった。

続いて高座に上がった三三は短めのマクラを振って『高砂や』へ。大店の若旦那と材木問屋のお嬢さんの婚礼の仲人を頼まれた八五郎が隠居に羽織袴を借りに行き、「仲人ならお開きのときに謡曲の『高砂』でも披露するといい」と言われて「高砂やこの浦船に帆を上げて」という冒頭の一節だけだけ習って行く噺だが、豆腐屋の物真似で謡いを覚える場面に行く前に、八五郎がなぜ御大家の仲人を務めることになったかを隠居に語るところをみっちりと演るのは師匠の小三治が演っていた『高砂や』と同じ。柳家三三はこの八五郎とご隠居の会話の中に独自のクスグリをガンガン入れて笑わせる。この日は八五郎が自分の腕をバンバン叩いて「これこれこれ!」と自慢するポーズの繰り返しが無性に可笑しかった。

仲入り後に登場した白酒が演じたのは『火焔太鼓』。この噺はどれだけ志ん生のオリジナルギャグから離れることができるかが勝負だが、もともと志ん生のギャグだけで構成された噺とも言えるので、古今亭の伝統を活かそうとするとなかなかそれができない。立川志らくが『火焔太鼓』を独自にこしらえて談志に誉められたのは、志らくが寄席のしがらみの中に生きていないからだろう。白酒が凄いのは、噺の雰囲気としての古今亭のトーンは活かしながら、個々の台詞まわしにおいて見事に志ん生離れを遂げ、独自の爆笑編をこしらえたこと。特筆すべきは、カカァ天下の道具屋夫婦のバカバカしいほどの仲の良さ。このダメ亭主の可愛さは白酒にしか出せない。今、誰よりも白酒の『火焔太鼓』が面白いと断言できる。この日はまた一段とキレが良く、ギャグの一つ一つがドカンドカンとウケ、爆笑また爆笑のうちに一気にサゲまで持っていった。観客と演者のノリがピタッと一致したときの、こういうドライヴ感こそライヴの醍醐味。お見事。

筆者紹介:広瀬和夫
1960年生まれ、東京大学工学部卒。落語評論家。毎日のようにナマの高座に接し、現在進行形の「今の落語」の魅力を語る第一人者として知られる。『この落語家を聴け!』『21世紀落語史』『噺は生きている』『僕らの落語』『落語家という生き方』『談志は「これ」を聴け!』『なぜ「小三治」の落語は面白いのか?』等々、落語の著書多数。音楽誌「BURRN!」編集長でもある。
 
 
 

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