4月13日(木)、「J亭落語会 春風亭一之輔独演会」。 演目は以下のとおり。
入船亭辰のこ『織田茶道』
春風亭一之輔『蜘蛛駕籠』
春風亭一之輔『花見の仇討』
~仲入り~
古今亭志ん八『締め込み』
春風亭一之輔『刀屋(おせつ徳三郎・下)』
開口一番の入船亭辰のこは扇辰門下の前座。あと一ヵ月で二ツ目に昇進するということで、一之輔から「新作をやってもいいよ」と言われたとのこと。そんなわけで演じたのは織田無道の弟、織田茶道が「あなたもテレビに出られる霊能者になれる」と謳って主宰する芸能霊能専門学校の噺。
続いて登場した一之輔は、先日放映されたNHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル』の話題から旅の話題へとマクラを振って、街道で客引きをする駕籠屋が次々に失敗する『蜘蛛駕籠』へ。色々な演目で「一之輔独自の演出」を前面に出して爆笑させる一之輔だが、この噺は五代目柳家小さん型のオーソドックスな演り方をほとんど崩さず、それでいて新鮮に楽しめる。落語の「上手さ」というのはこういうところに出てくるのだ、と改めて感心させられた。
一之輔はそのまま高座を降りずに二席目の『花見の仇討』へ。 長屋の四人組が花見の趣向で「巡礼兄弟の仇討ち」の茶番を演じようとしたものの、当日ハプニングの連続で大変なことになる噺で、近年では桃月庵白酒が得意としている印象が強い。一之輔は白酒からこの噺を教わったという。白酒の『花見の仇討』は独特な演出が多々あって、一之輔はその演出を基にしながらさらなるアレンジを加えて完全に「一之輔の噺」にしている。「親のカタキ!」という台詞をうろ覚えの巡礼兄弟(を演じる長屋の男)が「アジのタタキ!」と言い間違え、そこがベースになって「アジの開き!」からついに「アジのなめろう!」と原型をまったくとどめない台詞になってしまうくだりは白酒の「マヤの遺跡!」から「山のマタギ!」になっていく演出を一之輔流にアレンジしたものだが、「アジが好きだな!」と浪人役の男が返すように、「アジ」繋がり、という発想が一之輔らしい。茶番での巡礼兄弟のテキトーさは一之輔ならではの可笑しさ。編み笠が脱げない浪人、疲労困憊する松ちゃん等、白酒のならではの可笑しさが印象的な場面も、一之輔独自の可笑しさを生んでいるのはさすが。ちなみにこの噺、六代目三遊亭圓生、五代目柳家小さんは茶番を提案した男が六十六部役を務めるが、一之輔は白酒と同じく「言い出しっぺの俺が仇役を」とリーダー格の熊さんが浪人に扮するが、これは十代目金原亭馬生の演り方だ。
休憩の後に高座に上がった古今亭志ん八は泥棒噺の『締め込み』を。トボケた新作を聞かせる演者という印象も強いが、古典は正統派で古今亭らしくすっきりと聞かせる。
一之輔の三席目は、大店の一人娘おせつと奉公人の徳三郎がいい仲になって心中を図る『おせつ徳三郎』の後半『刀屋』。 花見に行ったおせつと徳三郎の様子を小僧の定吉がバラして徳三郎がクビになる前半は『花見小僧』という滑稽噺になっている。後半の『刀屋』は人情噺風だが、通常の演り方だと心中しようと法華経を唱えて橋から飛び降りた二人が筏の上に落ちて「お題目(材木)のおかげで助かった」というオチ。落語らしくていい、とも言えるけれども、その先の二人の運命が気にかかる。柳家花緑はそれをハッピーエンドにする独自の演出を考案して、実にいい噺にした。一之輔の『刀屋』は花緑から教わったもので、飛び降りた二人を見たおせつの父親が「添わせてやればよかった……」と後悔し、下を通りかかった舟に落ちて助かった二人に「一緒にさせてやる」と約束する。橋の上まで刀屋の主人が追いかけてきて、勘当した息子と偶然出くわすというのも花緑の『刀屋』だけの設定だ。滑稽噺二席で笑わせた後、トリネタで「人情噺をダイナミックに演じる一之輔」の魅力を存分に味わわせてくれた今日の構成、実に濃密で聴き応えがあった。