広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成28年12月分)<78>

12月15日(木)、「J亭落語会 柳家三三独演会」。 演目は以下のとおり。

 

柳家三三『道灌』
柳家三三『金明竹』
~仲入り~
柳家緑君『湯屋番』
柳家三三『二番煎じ』

開口一番の前座なしにいきなり三三が登場して、前座噺の『道灌』を。 これが実に面白かった!「泥棒なんて三年前にやめた」「それじゃやってたようじゃないか」みたいな当たり前のやり取りも、その後の八五郎の「……あれ?」というリアクションで笑いを呼ぶ。「鷹野だな」のくだりで通常「新宿の先かい?」「それは中野だな」となるところを「鷹野だな」「高円寺の手前?」「中野だ……なんでお前は向こうから来るの?」とやったり、いちいち話の腰を折る八五郎に苛立つご隠居に「それだけ一生懸命聞いてるってことですよ」と返したりといったという可笑しさは、師匠である小三治の『道灌』の面白さとは別の、むしろ立川流に近いものを感じた。 「ナ、ナ、ヘ、ヤ、ヘ」「目の検査か!」も不意を突かれて笑ったし、いや実に楽しい『道灌』だった。

三三は高座から降りることなく、そのまま『金明竹』へ。 これも前座噺だが、やっぱり三三が演ると面白い。与太郎ではなく「松公」で演るのは小三治譲り。この松公が妙に理屈っぽくて可笑しい。松公から相手がおかみさんに変わった途端に全速力でまくしたてる関西人、という演出はさすが三三。「どこかでエビのしっぽでも食べたんでしょう」というお馴染みのフレーズが後半で大活躍するのは三三でしか聴いたことがないアレンジ。感心したのは、「のんこのしゃあ」というフレーズの意味をちゃんと知っていること。これ、「平然としている」とか「しらばっくれる」といった意味で、「しゃあしゃあとしている」と同じような言葉。だけど多くの演者は「いくら食べてものんこのしゃあ」「汚いな」と、「垂れ流し」的なニュアンスで使っている。三三はちゃんと「のんこのしゃあ」「あ、足りないのか」「ええ、平然と」と言っていた。まあ、これだと笑いは起きないけど、その後の「エロ坊主が屏風を乗り越えたらエビがあった」等のくだりで大いに笑わせてくれるから問題なし。前座噺の二席で三三は「ありふれた落語も上手い人が演れば面白い」ということを証明してみせた。

休憩後はゲストの緑君。花緑門下の二ツ目だが、彼は本当に上手くなった。どことなく立川志らくを思わせる 雰囲気が(ちょっとだけ)あって、実に堂々としている。『湯屋番』、結構だった。「注目の二ツ目」として挙げておくべき人材だ。冒頭の「そぎメシのこきメシ」のくだりで「宇都宮の吊り天井メシ」に続けて「東京豊洲市場メシ」と時事ギャグを入れてもそこだけ浮いたりしないのは基本ができているから。将来が大いに楽しみ。

前半二席で実力を見せつけた三三、トリネタには冬の名作落語『二番煎じ』を選んだ。 この演目は志ん朝の十八番だったが、小三治の『二番煎じ』は志ん朝とは異なる演出で、面白さは勝るとも劣らない。三三の『二番煎じ』は小三治の演出を踏襲していて、黒川の旦那が「火の用心」を謡い調子で、浪花屋が浪曲調で、金久さんが見事な「火の用心」を披露して妄想に浸るといった前半も、一合上戸の男が出てくる後半も、基本的には小三治と同じ。もちろん三三ならではの味わいは随所にあり、役人が「みな、廻っておるか」と聞いた時に月番が「はい、相当まわっております」とヘベレケ口調で言うあたりは三三ならではのトボケた可笑しさが出ていて笑った。歳を重ねて演り込むことで更に磨きが掛かる違いないと確信させる、素敵な『二番煎じ』だった。

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