広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成28年11月分)<77>

11月10日(木)、「J亭落語会 桃月庵白酒独演会」。演目は以下のとおり。

 

桃月庵ひしもち『鰻屋』
桃月庵白酒『四段目』
桃月庵白酒『しびん』
~仲入り~
金原亭馬久『厄払い』
桃月庵白酒『黄金餅』

歌舞伎が大好きな定吉が可愛いお馴染みの『四段目』に続いて白酒が演じたのは、しびんを高価な花瓶と勘違いした侍に道具屋が勘違いを正すことなく五両でしびんを売りつける『しびん』。しびんを持って歩く侍の姿を見た町人が「何かしくじって、お仕置きかな」「泣かせるじゃねぇか」などと口々に噂するところ、しびんに菊の花を生けてあるのを見た客人が「しびんに菊とはヒネリの効いた…」と下卑た笑いを浮かべるところ等、「白酒だからこそ可笑しい」場面が随所にあるこの噺、白酒は二〇一三年十月のJ亭でも演っている。その時のトリネタは『笠碁』で、もし今日も『笠碁』を演ったらJ亭で三ヵ月連続で『笠碁』が掛かるところだったが、さすがに違った。

仲入り後に登場した金原亭馬久は当代馬生門下の二ツ目で、前座の「駒松」時代には時々J亭の高座にも上がっていた。今回演じたのは大晦日に与太郎が厄払いを言い立てて廻り豆と銭をもらおうとする『厄払い』。八代目桂文楽の演目の一つで、今は柳家小三治が年末たまに途中まで演る。「厄払いが逃げていきます」「どうりで今、逃亡(東方)と言ってた」というわかりにくいサゲまでそのまま演った。

白酒は九月二十七日・二十八日に「志ん生蔵出し」という会で『お直し』『黄金餅』の二つをネタ出ししていたのだが、二十六日は「新ニッポンの話芸」、二十七日は「別冊談笑」と、自分が出演もする落語会が北沢タウンホールで重なっていたため、どちらも行けなかった。どっちか今日演ってくれないかなぁと思っていたら、『黄金餅』を演ってくれた!白酒の『黄金餅』は死骸から金を盗もうとする金兵衛のキャラがとても元気で明るいのが白酒らしくて凄くいい。『芝浜』で大いに笑いを取る白酒らしい、楽しい『黄金餅』だ。麻布の寺に行くまでの道中付けのところで「上野から両国を通って麻布にスッと行けるような乗り物が乗り物があればいいんですけど」「だいぶ先の話ですなぁ」と都営大江戸線を予見したり、寺に「なーんにもない!とにかく何も、なぁーんにもない!」と立川談志が物量作戦で表現した寺のがらんとした様子を「ははぁ、偶像物を信仰しないというイスラムに近い宗派か」と表現したり、白酒らしい演出が笑いを呼ぶ。お経は例の「♪金魚ォ、金魚ォ~」ではなく「♪いろはにほへと」のお経の最後を「♪トランプこけたら皆こけた~アーメン」と締める演り方。最後の最後まで、とにかく威勢のいい金兵衛の描き方が特徴的な『黄金餅』だった。次は『お直し』が聴きたい!

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