広瀬和生の「J亭を聴いた」第30回大手町二人会 白酒・三三(令和5年11月分)

 

2023年11月9日(木)「J亭スピンオフ 桃月庵白酒・柳家三三 大手町二人会」@日経ホール

演目は以下のとおり

春風亭朝枝『道具屋』
柳家三三『道具屋』
桃月庵白酒『松曳き』
~仲入り~
桃月庵白酒『花色木綿』
柳家三三『鰍沢』


開口一番を務めた春風亭朝枝は一朝一門の二ツ目。若手とは思えない老成した物腰と語り口で丁寧に古典を演じる。今回の『のめる』では沢庵大根のくだりで八五郎の物わかりの悪さに戸惑う隠居のリアクションがトボケた味を出していた。

三三の一席目は『道具屋』。冒頭に与太郎が「鳩で儲けようと思ったら失敗した」話を伯父さんに聞かせるやり方。最初の客は釘抜きとノコギリ、次の客はタコ(股引)を見て帰る。三人目の客は表紙だけの「猿飛佐助」とツバの取れたシルクハットを見て呆れた後、毛抜きを手に取ると割れた鏡を立てかけて髭を抜き始める。どうでもいい世間話を何度も繰り返しながら延々と髭を抜くこの場面は師匠の小三治が好んで演じたもの。最初は呆れていた与太郎が次第にイライラしてくる描写が楽しい。最後に残った二本を与太郎に抜かせて綺麗になると「髭が伸びたらまた来よう、ゴメン」でサゲ。イライラした与太郎が早口でまくし立てても一向に動じず、絶妙な間で「そりゃ安直でよかったな」と返すのが小三治を思い出させる。江戸っ子の客が「おう!」と声を掛けるトーンも小三治譲り。三三の演じる与太郎はどこか上品で程が良く、実に可愛い。


白酒の『松曳き』はネタ出し。植木屋の名前を覚えられない殿様の粗忽さを遥かに凌駕する田中三太夫のズバ抜けた粗忽さが抱腹絶倒、あくまで威厳のある良い声で三太夫を演じる白酒の表情と動きの可笑しさは誰にも真似できない。三太夫の相手をする家来の対応も楽しい。時折素っ頓狂なトーンになる殿様の“育ちのいい粗忽者”の描き方も見事。『松曳き』は白酒に限る、という珠玉の小品。


白酒の二席目は『花色木綿』。代表的な泥棒噺としてよく演じられる『出来心』は、間抜けな泥棒があれこれ失敗した後に貧乏長屋の留守宅に忍び込み、褌しか盗むものがないので仕方なくそれを盗ったところに住人が帰宅する……という展開から本来のサゲへと向かう長い噺だが、多くの演者が前半の失敗だけ演じて「羊羹食べたから得した……いけねえ、下駄忘れてきちゃった」でサゲる。『花色木綿』は逆に後半だけ演じるもので、褌を盗まれた住人が「店賃を盗まれた」と大家に嘘をつき、大家が「盗難届を出すから何を盗まれたか教えろ」と書き出す。されを盗まれた、これを盗まれたと嘘ばかり並べる住人に腹を立てた泥棒が出てきて「褌しか盗ってねえぞ!」怒る。本来のサゲは、住人に大家が「どうしてあんな嘘をついたんだ!」と怒ると「ほんの出来心です」と、見つかった時の言い訳として親分から教わった台詞を言うもの。白酒が演じた『花色木綿』のサゲは住人が「裏が花色木綿」とひとつ覚えで繰り返すやり取りにちなんだもので、出てきた泥棒が「嘘つきは泥棒の始まりだ、交番へ来い!」と凄むと、大家が「褌一本でも泥棒だ。交番へ来いとはなんてえ言い草だ! 私もうるさがられてる大家、この長屋の裏に泥棒なんか入ったためしはねえ。この裏をどうしてくれる」と言う」ので泥棒が「裏? 花色木綿です」と答えてサゲる。古今亭志ん朝がこの演出でやっていた。「裏が花色木綿」の繰り返しで飽きさせず楽しく聴かせてくれるのはさすが白酒だ。


トリの三三はネタ出しの『鰍沢』。江戸から日蓮宗の総本山である甲州身延山久遠寺に参詣に来た男が雪で道に迷い、日が暮れかかってくる中、一軒のあばら家を見つけて一晩泊めてもらいたいと訪ねると、そこにいたのはかつて吉原で月の兎花魁といっていたお熊という美女。出された玉子酒を飲んで寝ていると、猟師をしている亭主が帰ってきて……。圓朝作の三題噺と言われるこの噺、三三は二ツ目の頃から得意にしていたが、近年ますます磨きが掛かっている。地の語りの端正な語り口と、登場人物を生き生きと描く演技とが相まって、聴き手を物語の世界に引き込んで離さない。雪山の寒さが身に沁みる中で江戸の男とお熊が会話をする場面の静けさから、亭主が帰ってきてじわじわ高まる緊張感、そこからのスリリングな展開はサスペンス映画を観ているよう。三三の卓越した話芸を心行くまで堪能できる名演だ。

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