広瀬和生の「この落語を観た!SP」 (令和6年5月分)

4月27日(土)

芸歴40周年記念興行
 立川談春独演会(昼の部)@有楽町朝日ホール

<演目はこちら>
  立川談春『かぼちゃや』
  立川談春『三方一両損』
    ~仲入り~
  立川談春『紺屋高尾』

与太郎噺の『かぼちゃや』を談春がさかんにやり始めたのは2012年のこと。大ネタ系が多い談春の独演会で聴ける滑稽噺というと『おしくら』『粗忽の使者』『棒鱈』『替り目』あたりが定番だったが、この年から談春の滑稽噺の定番に『かぼちゃや』が加わった。

僕が最初に聴いたのは成城ホールでの「アナザーワールド」で、談春演じる与太郎のあまりの可愛さにゲラゲラ笑ったものだった。硬派な語り手というイメージが強い談春だが、実はとても“フラ”のある演者で、それまでも『大工調べ』で見せていた「与太郎の可愛さ」を前面に押し出した『かぼちゃや』は談春のフラ全開の一席。今回の『かぼちゃや』では与太郎が「ライスカレーはシャジで食う」と言った後「スプ~~ン!」と嬉しそうに叫ぶのがバカバカしくて素敵だった。

講釈の大岡政談を元ネタとする『三方一両損』は純然たる江戸落語。大岡裁きと「多くは(大岡)食わねえ」「たった一膳(越前)」のサゲに行くまでの騒動が単なる仕込みになってはいけないわけで、江戸っ子の喧嘩を楽しく聞かせくれる演者、言い換えると「宵越しの銭を持たない」「喧嘩っ早いことを自慢する」見栄っ張りな江戸っ子の了見をリアルに表現できる演者にしかできない噺と言ってもいい。三方一両損という大岡裁きは有名でありながら寄席で聴くことは滅多にない演目だ。

立川志の輔が奉行のキャラに独特な味付けをして裁きの場面を楽しく聴かせることに力点を置いて演じているが、“江戸っ子”に焦点を絞って威勢よく演じるという点では、現代落語界では談春の右に出る者はいない。そんな談春も「こんな訴えを奉行が裁くはずがない」という歴史的事実を素通りすることを潔しとせず、「名奉行という評判を意識してこの裁きを担当した」という解説を噺の中に加えているのは立川流らしいところで、「面白いから裁く」という奉行の動機は志の輔演出にも通じるところがある。

久蔵が親方に「所帯を持ちます! 三浦屋の高尾という人です! いい人なんです! 決めました!」と突然言い始める場面から始まる談春の『紺屋高尾』は、“愛”というテーマに正面から取り組んだ一席。一方的な思い込みで「高尾と所帯を持つ」と決めた久蔵に親方が「高尾はお前の手の届く女じゃない」という真実を説き聞かせたことで久蔵は患ってしまい、親方が嘘も方便で「三年働けば会わせてやる」と言ったことで久蔵が一念発起する、という展開。「高尾は諦めろ」と言い聞かせる冒頭の場面で親方が言う「夢を見たら叶えなきゃいけない。叶えられないのは夢じゃない、憧れっていうんだ」という台詞は今回初めて聞いたが、演者談春の想いだろう。

談志は『紺屋高尾』で「高尾に恋をさせたかった」と、高尾は打算ではなく久蔵の一途さにほだされるという演出にしたが、談春は談志の「一途な久蔵」と「ほだされる高尾」を受け継ぎながら、さらに久蔵の側の“純愛”をより深く描いている。

高尾に恋焦がれ、三年経って会うことができた高尾に自分の想いをぶつける場面の久蔵の健気さは圧倒的で、これを聞いていた高尾が「久蔵から見えない側の目から涙がポロッと落ちた」だけでは終わらず、「ぬしの女房はんにしてくんなますか。わちき、ぬしの女房になりたいんざます」と言って滂沱の涙を流した、というのは談春ならではの展開。聞き手がここに感情移入できるのも、談春演じる久蔵があまりに健気だからこそ高尾は惚れた、という説得力がそこにあるからだ。

年季が明けた高尾が久蔵を訪ねて発する「久さん、元気?」という談志譲りの台詞が胸に響いた直後に親方夫婦のコミカルな会話で笑いを呼ぶのは談春らしいところ。「世間が大騒ぎになる、早く一緒になっちゃえ」と言って親方が所帯を持たせる、という言い方は他では聞かない独特な解釈。従来からの十八番を、“今の談春”の新たな台詞を交えて磨き上げた逸品だ。

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