広瀬和生の「この落語を観た!」一宮入魂!!2025 一之輔・宮治 ふたり会

2022年に始まった、年に一度の「一宮入魂!! 一之輔・宮治ふたり会」。昨年の第3回から“『笑点』メンバーの二人会”になったが、第1回の時点では二人とも『笑点』とは無縁だった。2023年の第2回が開催されたのは宮治が『笑点』メンバー入りしたばかりの時期で、一之輔はオープニングトークで散々それをイジっていたが、第3回ではまさかの“一之輔『笑点入り』”が発表された後だった。

第4回となった今年2月5日(水)の演目は以下のとおり。

三遊亭こと馬『ん廻し』
桂宮治『時そば』
春風亭一之輔『味噌蔵』
~仲入り~
春風亭一之輔『加賀の千代』
桂宮治『メルヘンもう半分~アンパンマンの自害~』


宮治の一席目『時そば』は一人目の“一文かすめる男”の調子よさが際立っている。型に嵌まった言い回しではなく“宮治の台詞”になっているのが好ましい。寒空で熱い蕎麦を食べるリアルな描写に力を入れているのが印象的。それを見ていた男が“調子いい客”の台詞にいちいちツッコミを入れるのが笑いを呼ぶ。一文かすめるトリックに他の演者では類を見ないほど混乱しまくる濃厚なバカバカしさは宮治ならでは。翌日この男がこのトリックを真似しようと捕まえた蕎麦屋が“店じまいして帰ろうとしていたところ”だった、という設定のスマートさから一転、“驚異的に酷い蕎麦屋に翻弄される客”のアクの強い描写に移行、さらに意表を突く展開に至る後半の徹底的なドタバタ感は宮治の独壇場。その後に高座に上がった一之輔も指摘していたとおり“笑いに貪欲”な宮治の真骨頂とも言える異色の『時そば』だ。


『味噌蔵』は一之輔の“冬の十八番”と言える演目。三代目桂三木助や八代目三笑亭可楽、“人間国宝”柳家小三治といった歴代の名人が演じ、現役では柳亭市馬も得意としているが、一之輔は自身の個性を存分に注入した独自の台詞回しで登場人物たちを生き生きと描き、先人たちの名演とは別次元の爆笑編に磨き上げた。“ケチな主人の不在”に羽目を外す、粗食に慣れきった奉公人たちのあまりにユニークな描写は、他の演者の『味噌蔵』とは一線を画する破壊的な可笑しさに満ちている。番頭が“カツ煮の美味さ”を饒舌に語る場面のリアルな独り芝居は一之輔ならではの最高に素敵な脱線。自由を謳歌する奉公人たちの「ラ・マルセイエーズ」が冬の夜に響き渡る一之輔の『味噌蔵』は、冬に必ず一度は聞かずにいられない逸品だ。


甚兵衛さんの可笑しさが突出している一之輔の『加賀の千代』は短い持ち時間で観客を大いに楽しませる鉄板ネタ。甚兵衛さんのトボケた言動の可愛さを溺愛するご隠居さんの家で繰り広げられるバカバカしいやり取りは何度観ても新鮮に可笑しい。


江戸の居酒屋夫婦の悪行が祟りを招く『もう半分』は、五代目古今亭今輔や五代目古今亭志ん生、さらには古今亭志ん朝や柳家小三治が演じた怪談。その改作『メルヘンもう半分』は三遊亭白鳥の作品で、登場人物をムーミン谷の住人に変えたものだが、途中までは『もう半分』そのままの怪談と思わせておきながら終盤で意外な展開へと導き、最後は温かな感動の余韻を残す人情噺。桃月庵白酒はこの『メルヘンもう半分』を、登場するキャラをドラえもんの世界に置き換えて演じたが、宮治はアンパンマンの世界に移している。白鳥が下敷きにした『もう半分』は年寄りが身を投げる型ではなく五街道雲助の“庖丁で刺し殺す”型。宮治もそれを踏襲しているが、白鳥より雲助の型に忠実に“根っからの悪党”としてアンパンマンを描き、人情噺に展開させることなく、元々の『もう半分』以上に怖く、悲惨な噺として完結させている。一席目の『時そば』で見せた“笑いに貪欲な”宮治とはまた別の、シリアスな演技に没入した時の宮治の迫力が堪能できる、正真正銘の“怪談”だ。(広瀬和生)

※本稿で紹介している「一宮入魂!!2025 一之輔・宮治 ふたり会」は「産経らくご」で3月5日まで配信中です。

ぜひ本稿とあわせてお楽しみください。

↓↓ご視聴はこちらから↓↓

https://rakugo.sankei.com/video/live/video-71284/

 

 

 

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