広瀬和生の「J亭を聴いた」第16回大手町二人会「三三・一之輔」(令和3年3月分)

広瀬和生

3月10日(水)「J亭スピンオフ 柳家三三・春風亭一之輔 二人会」@日経ホール。定数半減/配信ありでの開催。演目は次のとおり。

橘家文吾『星野屋』
柳家三三『五目講釈』
春風亭一之輔『夢見の八兵衛』
~仲入り~
春風亭一之輔『花見小僧』
柳家三三『錦の袈裟』

居候の若旦那に「働いてください」と言って若旦那が湯屋に奉公するのが『湯屋番』、紙屑屋に奉公するのが『紙屑屋』。それらと似た始まり方をしながら、意外にも若旦那が「講釈師になる」と言い出すのが『五目講釈』。志ん生の演目だが、今では三三の専売特許だ。若旦那が長屋の連中を集めて披露するのは『赤穂義士伝』から「二度目の清書き」、と言いつつどんどん脱線して別の講釈やら芝居の文句やら落語やら時事ネタまで入ってきてワケがわからない。この“いろんなフレーズがゴチャ混ぜ”の五目講釈できちんと笑わせるのが三三の腕の見せどころ。サゲは「生薬屋の若旦那だけに“調合”がうまい」。ちなみに上方落語の『兵庫舟』を東京に移した『桑名舟』の中に『五目講釈』を持ち込んだのが立川談志の『鮫講釈』で、こちらはより多くの演者が高座に掛けているので“いろんなフレーズがゴチャ混ぜの五目講釈”というと『鮫講釈』のほうがポピュラーだ。

夢ばかり見て昼間ボンヤリして仕事にならないという八兵衛に大家が「一晩中“つり”を見る仕事」を世話すると、釣りが好きな八兵衛は大喜び。だが“つり”とは“釣り”ではなく長屋の首吊り死体のことだった、という『夢見の八兵衛』(『夢八』とも言う)は上方落語。東京では柳家一琴が得意とし、一之輔も一琴に習ったが、独自のアレンジをどんどん持ち込んで“一之輔の夢八”をこしらえた。お重の“お煮しめ”に大喜び、昆布巻きの昆布を着物の帯のようにクルクルと解いて「あ~れ~ご無体な~」「良いではないか♪」と一人芝居に耽ったりガンモドキの汁が目に入って大騒ぎしたりするバカバカしさもさることながら、「ニンジン甘い♪」「ハス嫌い!」とひたすら繰り返すのがこの上なく可笑しい。

やがてムシロの向こうに人がいると気づいてあれこれ話しかけても相手が黙っているのでイジケたり反省したりする八兵衛の可愛さも一之輔ならでは。はずみでムシロが落ちると向こうには首吊り死体。この死体を手ぬぐいを使って「無念の表情、物凄くも……」と演じるのがこの噺のハイライト。この首吊りの顔が凄すぎて笑いを生む。この死体に化け猫が毒気を吹き込んだ首吊り死体が口を利き始め「なんでハス嫌いなのぉ~? 食べなさ~い」と説教し始めるのが素敵だ。八兵衛に伊勢音頭を歌わせて踊っていた死体が八兵衛の上に落ちてくる場面の“スロー再生”も楽しい。翌朝大家に起こされた八兵衛は伊勢音頭を歌い出し、大家が「お伊勢参りの夢を見てる」でサゲ。

『花見小僧』は『おせつ徳三郎』の「上」。一之輔は柳家花緑に教わった型の『刀屋(おせつ徳三郎・下)』は以前から演っていたが、今年1月の独演会で『おせつ徳三郎(通し)』をネタ出し。その際『花見小僧』を初演した。その後、勉強会「真一文字の会」でも高座に掛けている。

大店の一人娘おせつと奉公人の徳三郎が去年の花見をきっかけに“いい仲”になったと番頭から聞いた旦那は花見についていった小僧の定吉を呼び出し、「本当のことを話さないとお灸を据える、話したら小遣いと休みをやる」と言われた定吉は向島へ花見に行った際の二人の熱い様子をペラペラしゃべり始める。この定吉の“一言多い”キャラが際立っていて、定吉の言葉にいちいち反応する“婆さん”にツッコミを入れる旦那、という構図が楽しい。

向島の牛御前様(牛島神社)にお参りに行った際、おせつに「いい加減な気持ちでお参りするとバチが当たって牛になっちゃいますよ」と言われた、と定吉。「でも牛になってもいいですよ、牛になったら山王祭の山車を引っ張ります」と言って祭囃子を歌い出して大騒ぎ、おせつと徳三郎と旦那の人形の芝居がかりの台詞を演じてみせる。「お前は娘を市中引き廻したのか」と旦那が言うと定吉は「それで私がダシにされました」でサゲ。

町内の若い連中が隣町の連中の“緋縮緬の襦袢の揃い”に対抗して吉原へ“錦の褌”を揃えて行く『錦の袈裟』。質屋の番頭から十人分の錦を手に入れたが、与太郎の分がない。だがこういうときに与太郎を仲間外れにしないのが落語のいいところ。『錦の袈裟』の与太郎には女房がいるという設定で、与太郎は女房に相談すると、「お寺の住職から錦の袈裟を借りればいい」と知恵を付けられる。三三の演じる与太郎は実に可愛く、女房との会話も微笑ましい。

住職から「明日それを使うから朝には返しに来なさい」と言われて高価な袈裟を借りてきた与太郎はそれを褌代わりに。見世では袈裟輪が付いた褌を締めた与太郎を“殿様”だと思って厚くもてなし、他の連中が全員フラレたのに与太郎だけ女にモテた。翌朝のニヤケた与太郎と悔しがる男たち。布団の中で花魁に「ぬしはどうあっても今朝は帰しません」と言われた与太郎、「袈裟を返さないとお寺しくじっちゃう」でサゲ。チャーミングな与太郎が主役の、三三らしいスマートな廓噺だった。

配信中の落語ライブ動画

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《もう一度見たい名演》桃月庵白酒「幾代餅」(令和3年11月『第20回J亭スピンオフ企画』より)

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《もう一度見たい名演》三遊亭兼好「死神」(令和2年12月『第12回三遊亭兼好独演会冬スペシャル』より)

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《もう一度見たい名演》春風亭一之輔「浮世床」(令和5年3月『第26回J亭スピンオフ企画より)

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配信期間:2024年4月1日(月)00:00~2024年4月30日(火)23:59 出演者:春風亭一之輔
ルート9fes 2024 昼の部

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配信期間:2024年3月24日(日)14:30~2024年4月30日(火)18:00 出演者:(ルート9)笑福亭茶光、三遊亭花金、春風亭昇りん、昔昔亭昇 (ゲスト)五街道雲助、丸一小助・小時
ルート9fes 2024 夜の部

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配信期間:2024年3月24日(日)14:30~2024年4月30日(火)18:00 出演者:(ルート9)春風亭弁橋、神田桜子、三遊亭仁馬、春風亭昇咲 (ゲスト) 神田松鯉、丸一小助・小時
神田連雀亭オンライン寄席2024年三月昼席

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配信期間:2024年3月21日(木)13:30~2024年4月30日(火)13:30 出演者:柳亭市若 春風亭昇羊 立川寸志 三遊亭鳳月
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