【直球&曲球】 春風亭一之輔 「当たり前」が言える世の中に

 平成30年からほぼ月に1回、この連載をさせていただいています。「独自の視点で世相を辛口に切ってください」と依頼されたものの、振り返ると、ごく当たり前のことを当たり前のようにつづっています。
 ネット記事につくコメントも見ましたが、「薄っぺらい」とか「芸人がなんか言うな」とか。そっちのほうがよっぽど〝辛口〟で、恐れ入ります。今回で私のコラムは最終回ですが、また当たり前のことになりそうです。
 当代の林家三平師匠が、先の大戦中に戦意高揚のために作られた「国策落語」を復活させて演じ、ニュースになっていました。もちろんそんな落語を作って演じなければならなかったことを反面教師とし、二度と悲劇を繰り返さないため。また当時は公序良俗に反する(と思われる)落語を、噺家(はなしか)自らが選んで禁演としました。
 どちらも、どういう形であれ落語というものを生きながらえさせるために、噺家が仕方なく時局に合わせた面もあるでしょう。お上ににらまれたら厄介だから、とりあえず今だけは合わせとこうぜ、と。強(したた)かな先輩方がいたからこそ、今の落語界があるのかもしれません。
 自分の生きているうちにそんな事態にならないとは限りません。現に今の日本はいつ戦争の渦中に巻き込まれても不思議ではない状況です。
 もしそんな事態になったとき、自分はどう動くでしょう。信念を曲げて大樹の陰に入るか。突っ張って生きていくか。あえて小ずるく振る舞ってその場をしのいで時を待つか。ともあれ噺家らしく飄々(ひょうひょう)と、世の中を疑って生きていければいいなと思います。
 「いつでも当たり前の落語が寄席で聴ける」。そんな世の中であってほしい、いや、そういう世の中にしていかねばいけませんね。
 最終回まで当たり前のことですいません。でも当たり前のことが当たり前に言えて、世界が今より少しでも平和になりますように。
                  ◇
 春風亭一之輔さんの「直球&曲球」は今回で終わります。

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