広瀬和生の「J亭を聴いた」 J亭スピンオフ企画 41 白酒・一之輔 大手町二人会

2026年3月12日(木)「J亭スピンオフ 桃月庵白酒・春風亭一之輔 大手町二人会」@日経ホール

演目は以下のとおり

桂枝平『山号寺号』
春風亭一之輔『人形買い』
桃月庵白酒『お茶汲み』
~仲入り~
桃月庵白酒『代書屋』
春風亭一之輔『柳田格之進』


開口一番は桂文生門下の二ツ目、桂枝平。演じた『山号寺号』は、往来で若旦那に出会った幇間の一八が、浅草の観音様は正確には「金龍山浅草寺」であるように“山号寺号”はどこにでもあると言うと、「どこにでも」という言葉尻を捕えた若旦那が「じゃあ、ここにもあるんだな」と迫り、一八が「〇〇“さん”×דじ”」という駄洒落で切り抜けようと頑張る噺。柳亭市馬が寄席の短い持ち時間などでよくやるネタのひとつだが、枝平は途中からアッと驚くオリジナル演出を施して観客の笑いを誘った。このセンスは素晴らしい。


一之輔の一席目は大家が息子の初節句の祝いで長屋に配ったちまきの礼に二人組が人形を買いに行く『人形買い』。この噺、もともとは長屋の神道者が息子の初節句でちまきを配ったという設定で、二人組が二体の人形を長屋に持って帰って易者や講釈師に「どちらにするべきか」と意見を聞いて神道者に人形を届けることになる、というストーリーなのだが、後半の展開が面白くないので大抵の演者が途中まででサゲる。その演出にも様々なヴァリエーションがあるが、一之輔は買い物に行く二人組の会話の可笑しさに重点を置き、長屋についていく小僧のキャラの楽しさも大きく膨らませて、独自のサゲに持っていく。これが実に面白い! 地味な『人形買い』をこんなに面白い落語に生まれ変わらせた一之輔は本当に凄い。


白酒の一席目は、吉原でモテた友人の話を聞いた男が吉原に向かう『お茶汲み』。古今亭志ん生が初代柳家小せんから教わった廓噺で、息子の志ん朝も手掛けた。近年では柳家小三治が頻繁に高座に掛けた演目というイメージが強いが、白酒は淡々と演じた小三治とはまったく異なり、志ん朝にも通じるリズミカルで威勢のいい語り口に白酒ならではの楽しい演出を存分に加え、実に楽しい落語にした。前半を単なる仕込みにせず後半で飽きさせない白酒の手腕は「お見事!」と言うしかない。一之輔の『人形買い』に続き、白酒の『お茶汲み』もまた「地味な噺を聞き応え満点の噺として生き返らせた」好例だ。


仲入りを挟んで白酒が演じた『代書屋』は桂米朝の師匠である四代目桂米團治が創作した“戦前の新作落語”。上方で演じられていたこの噺を最初に東京に持ってきたのは立川談志だった。今の東京では柳家権太楼の得意ネタとして知られているが、白酒は代書屋を訪れた男のバカバカしさを途轍もなく膨らませ、とんでもない爆笑編として自分のものにした。名前を聞き出すまででこんなに笑わせる『代書屋』は空前絶後だ。


一之輔のトリネタ『柳田格之進』は講釈ネタで、志ん生が手掛けて先代馬生や志ん朝が受け継いだ。柳田の“武士の誇り”は現代人には理解しにくいうえに、娘きぬの“父を思うがゆえの決断”はただただ可哀想に思え、この父娘を追い込んだ番頭がひたすら憎く感じられて後味の悪い噺となってしまいがちなのが、志ん生の二人の息子から伝わる従来の演出。そこをなんとかしようと幾人もの演者が独自の工夫を加えている。一之輔は師匠である春風亭一朝の見事な演出を踏襲して柳田父娘を巡る顛末に救いを持たせ、独自のエピローグを加えて清々しい余韻を与えた。“人情噺”として現代人が納得できる、重厚にして爽快な『柳田格之進』だ。

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4月9日(木)18:45まで配信中の「J亭41」公演動画もあわせてお楽しみください。

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