年に一度よみうり大手町ホールで開催される大手町独演会「ザ・桃月庵白酒 ライト」。“其の十二”が5月9日(土)に開催された。演目は次のとおり。
桃月庵白酒『転失気』
桃月庵白酒『付き馬』
~仲入り~
桃月庵白酒『松曳き』
桃月庵白酒『お直し』
白酒はこのところ独自演出を施した『転失気』をよく高座に掛けている。“合コン”“ヒエラルヒー”といった現代語を入れ込む可笑しさもさることながら、和尚の嘘に気づいた珍念が“人間という存在の小ささ”を悟り、キャラが変わって語り口や声まで変わるという演出は白酒ならでは。お馴染みの前座噺を新鮮な爆笑編に磨き上げた白酒のセンスに脱帽だ。
口の達者な男が若い衆を煙に巻いて金を持たずに吉原で遊び、翌朝その勘定を取り立てるために男に付いてきた若い衆を騙して逃げる『付き馬』。白酒はこの“口の達者な客”の描き方が抜群に上手い。店から出て饒舌に喋り続けていつの間にか仲見世を通って雷門まで行ってしまう客の語り口はまさに“名調子”。そのリズミカルなお喋りに思わず聞き惚れてしまう。田原町の早桶屋で客が逃げた後の親方と若い衆の会話の“すれ違いながら噛み合ってしまう会話”はそのシチュエーション自体が可笑しいが、白酒はそこにオリジナルの台詞を入れてブーストを掛けている。廓噺を現代の観客に共感できる落語として楽しく聞かせる白酒の真骨頂だ。
粗忽な殿様と粗忽な重臣とのドタバタを描く『松曳き』は白酒の鉄板ネタ。白酒以前にここまでバカバカしく笑わせる『松曳き』をこしらえた演者はいない。最近は二ツ目の柳家小ふねが白酒とはまた別の角度からバカバカしい『松曳き』を演じているので「今や『松曳き』は白酒の独擅場」という表現は避けているが、やはり白酒の『松曳き』は最高だ。何度聴いても新鮮に可笑しい。
いい仲になって夫婦になった花魁と若い衆を描く『お直し』は廓噺の大ネタ。五代目古今亭志ん生が『お直し』で芸術祭賞(文部大臣賞)を受賞したことから、古今亭の一門はこれを“お家芸”として大事にしている。だらしのない亭主のせいで蹴転(吉原の底辺)で再び女郎をやる羽目になった女房の境遇は悲惨だが、白酒は彼女を強く賢く魅力的な女性として描くことで聴き手の共感を呼ぶ。最後の夫婦の会話は人情噺のようなトーンでありつつ、あくまで“落語らしさ”を保つ匙加減が絶妙だ。現代の観客にとってこの亭主の身勝手さは許容し難いものがあり、難しいうえに“儲からない噺”として敬遠されがちな演目だが、白酒特有のいい意味でドライな芸風が『お直し』という噺に新たな息吹を与えた。逸品だ。
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