今年の大阪と東京の独演会で披露した演目はノンフィクション落語と題して現在85歳、奈良市在住の西畑保さんの人生を落語にさせていただきました。
この方は山奥にある炭焼き小屋で産まれ育ちました。いろんな事情があり小学校2年で学校に行かなくなり、12歳で字の読み書きができないまま住み込みで勤めに出ます。
読み書きができないことでイジメにあったり、理不尽な理由でクビになり職を転々とします。20代後半ですべてを受け入れてくれた奈良のおすし屋さんで働くことになり、そこのお客さんからの紹介で出会ったのが奥さま。
嫌われるのを恐れ、字の読み書きができないことを隠してお付き合いをして結婚。子宝にも恵まれますが、ある日バレてしまいます。しかし、奥さまは怒るどころか西畑さんを受け入れ、その日からどこに行くのも一緒に行き読み書きのお手伝いをしてくださったそうです。
定年後、63歳から夜間中学に通い、読み書きの勉強を始め、結婚して35年目で初めて奥さまに手紙を書かれました。
僕はこの噺(はなし)のタイトルを「生きた先に」とさせていただきました。西畑さんは、人生を諦めず生きた先に奥さまと出会い、娘さんが生まれ、字の読み書きができるようになった。
今はツラくても生きた先に光があると私は信じています。そして、当たり前に学習ができる環境があるありがたさ。落語を通して伝えていけたらと思います。
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ノンフィクション落語「生きた先に」に関するお問い合わせは松竹芸能(06・6258・8085)まで。