広瀬和生の「J亭を聴いた」 J亭スピンオフ企画 43 三三・一之輔 大手町二人会

※配信映像より

2026年7月9日(木)「J亭スピンオフ 柳家三三・春風亭一之輔 大手町二人会」@日経ホール

演目は以下のとおり

三遊亭萬都『のめる』
柳家三三『茄子娘』
春風亭一之輔『船徳』
~仲入り~
春風亭一之輔『普段の袴』
柳家三三『文違い』


開口一番を務めたのは三遊亭萬窓門下の二ツ目、萬都。「のめる」が口癖の八五郎と「つまらない」が口癖の熊五郎が、互いに口癖を言う度に罰金を払う決め事をする『のめる』は寄席でよく高座に掛かるお馴染みの演目だが、萬都の語り口は実に巧みで細部の演出にも工夫があり、新鮮に楽しめた。前半、熊五郎を引っかけようとした八五郎が逆に引っかけられる場面では、“羽織を着て出かけようとする”という通常の引っかけの前に“一本歯の下駄をあつらえた”というくだりを挟み込んでいて、これが実に可笑しい。後半の詰め将棋の場面にも独特の面白さがあった。二ツ目になって三年目、将来が楽しみだ。


三三の一席目は、畑でナスを大事に育てていた和尚の許に“ナスの精”と自称する美女が現われる『茄子娘』。先代の入船亭扇橋の演目で、三三の兄弟子である柳家喜多八もよく演じていたが、三三の『茄子娘』は独自の演出を随所に施して、先人たちとは一味違う魅力がある。細やかな描写の語り口の丁寧さと台詞廻しのリアリティは三三ならでは。サゲの一言に集約される小咄のような演目を、三三はその巧みな話術で情緒あふれる素敵な一席に仕上げた。

※配信映像より
一之輔が一席目に演じた『船徳』は夏の名作落語の筆頭に挙げられるだろう。人情噺『お初徳兵衛』の発端を明治の初代三遊亭圓遊が滑稽噺にしたもので、八代目桂文楽や古今亭志ん朝、柳家小三治といった歴代の演者がポピュラーにし、今も多くの演者が手掛けている。船宿で居候をしている若旦那が船頭になると言い出し、親方が船頭たちを集めてそれを伝える場面では、船頭たちが親方に隠していたことをベラベラ喋ってしまうという“お約束”を一之輔はあえてカット、代わりに“若旦那をそそのかした船頭”の存在が明らかになるという一幕を入れたのが素晴らしい。親方と「我慢しない、辛抱しない、嫌になったらすぐやめる」と約束して船頭になった若旦那のバカバカしいまでの軽さは一之輔の真骨頂。“自分勝手でワガママな若旦那に周囲が翻弄される噺”という本質を独特のアプローチで見事に表現した。


風格のある武士の粋な振る舞いをオッチョコチョイな町人が真似して失敗する『普段の袴』は柳亭市馬が寄席でよく演じているが、一之輔はその型を極限までバカバカしく作り変えた。「祝儀と不祝儀がぶつかった」くだりの可笑しさ、道具屋の場面での定吉の活躍等々、一之輔ならではの爆笑演出が全編で発揮される遊び心に満ちた一之輔の『普段の袴』は何度聴いても新鮮に笑える鉄板ネタだが、この日は一段と“自由演技”が冴え渡っていた。

三三のトリネタは、新宿の遊廓を舞台として“騙し騙される”人間模様を描いた『文違い』。六代目三遊亭圓生が得意としていた演目だ。三三が小学校低学年の頃に初めて聴いた落語が『文違い』で、この噺の“同じようなやり取りが繰り返される”構造に感銘を受け、「落語って面白い!」と目覚めたという。女郎のお杉、馴染み客の半七、田舎者の角蔵、色男の芳次郎というそれぞれの登場人物を三三は生き生きと演じ、目の前で繰り広げられるドラマに引き込まれる。この日の高座では一之輔の『普段の袴』を踏まえてのアドリブも楽しい。サゲの台詞を角蔵が一気に言うのではなく喜助の台詞を一言挟んだ三三独自の工夫にも納得。型に嵌まることなく、それぞれの人物がリアルに揉めている様子を見事に表現し、新鮮に聴かせてくれる逸品だ。(広瀬和生)

※8月6日(木)18:45まで配信中の公演動画とあわせてお楽しみください!動画はこちら

 

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