広瀬和生の「J亭を聴いた」 J亭スピンオフ企画 42 白酒・三三 大手町二人会

2026年5月28日(木)「J亭スピンオフ 桃月庵白酒・柳家三三 大手町二人会」@日経ホール

演目は以下のとおり

春風亭一花『洒落小町』
柳家三三『旅行日記』
桃月庵白酒『笠碁』
~仲入り~
桃月庵白酒『壺算』
柳家三三『提灯屋』


開口一番を務めたのは昨年度のNHK新人落語大賞を受賞した春風亭一花。この秋に五人抜きの抜擢で単独真打昇進が決まっている。落語協会で単独の真打昇進は兄弟子の春風亭一之輔以来、14年ぶり。『洒落小町』は六代目三遊亭圓生の演目で、立川談志も得意とし、弟子の立川志らくが受け継いでいる。通称“ガチャ松”という騒々しい女房をどう演じるかがこの噺の“肝”で、一花はそれが実に見事。あまり下品なキャラにしてしまうと笑うに笑えないが、一花演じるガチャ松は可愛げがあって、騒々しさも程がよく、素直に笑える。一花は“押しの強い女性”が似合っていて、この噺もまさにそれ。ガチャ松の相手をする大家や亭主の描き方が上手いのもポイント。女性演者である強みがガチャ松に活かされていると同時に、大家や亭主を自然に表現できていて違和感は皆無。師匠の春風亭一朝譲りの江戸前な芸風が板に付いている。前座時代からずっと見てきたが、本当に上手くなったと思う。『洒落小町』をこんなに楽しく聞かせる演者も珍しい。真打昇進が決まって一段と成長したような気がした。


三三の一席目『旅行日記』は紙切りで名を成した初代林家正楽による新作で、先代古今亭今輔をはじめ落語芸術協会に伝わっている他、落語協会では三三の兄弟子の柳家喜多八がよく演じていたのが思い出される。三三は独自のアレンジを随所に加えて噺を膨らませ、サゲにもヒネリを加えている。大ネタを見事に演じる三三もいいが、こういう噺を軽やかに演じる三三のトボケた可笑しさは何とも素敵だ。三遊亭白鳥との会などで新作を演じる時の生き生きとした三三を思い出す高座だ。


白酒の一席目『笠碁』は五代目柳家小さん十八番として知られるが、先代の金原亭馬生もこれを得意としていて実に楽しかった。馬生の孫弟子である白酒も当然“馬生の型”を受け継いでいて、そこに白酒ならではの人物描写の妙を存分に注入している。喧嘩をする二人の大旦那の可笑しさはまさに“ザ・桃月庵白酒”。喧嘩の際に持ちだされる“8年前の件”は白酒オリジナル。サゲも変えている。


元は上方落語で三代目三遊亭圓馬が東京に移した『壺算』は、若い頃から白酒が寄席で頻繁に演じていた演目で、真打昇進当時からのファンにとっては“白酒十八番”というイメージが強い。『松曳き』や『代脈』などと同様「白酒によって新たな命が吹き込まれた噺」だと個人的には思っている。マクラの小咄も昔から必ず披露していたもの。“アタフタする男”を演じると最高に可笑しい白酒ならではの楽しさを満喫できる。それにしてもこの店主を騙すトリック、アメリカ映画『ペーパームーン』にも同様の手口が登場するが、最初に考えたのは誰なのだろう?


『提灯屋』と言えば柳家小三治……と僕などは思うが、晩年はめっきり演らなくなったから、そのイメージを共有できる落語ファンも年々減っているのだろう。サゲに直結する“マル”“カシワ”が上方の言葉であることからもわかるように、元は上方落語。三三は師匠である小三治の型を継承しながら完全に自分のものにしているのが見事。「物は弾みだ」という男の長々とした大八車の喩えは三三オリジナルで、バカバカしくていい。ムキになる提灯屋のキャラも三三らしくて楽しい。町内の若い連中が提灯屋で次々に繰り出す“判じ物(もん)”は小三治そのまま……かと思ったら、四人目の男がこの日の出演者と演目を用いて長々と新たな判じ物を披露。これには驚かされた。現代の観客には楽しさが通じにくい演目を、三三が“生きた落語”として演じてくれているのが嬉しい。この日の演者は全員“演者自身の強み”を存分に発揮していた。充実の一夜だ。

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