【妄想亭日常】「落語家夫婦」 弁財亭和泉
私の夫は落語家です。名前は柳家小八(やなぎや・こはち)。同じ落語協会に所属している真打です。
現在、落語家夫婦は私たちと後輩の金原亭馬久(きんげんてい・ばきゅう)さん、春風亭一花(しゅんぷうてい・いちはな)さん夫婦の2組だけ。
「同業者だといろいろ大変でしょ」と時々心配の声をいただきますが、別々の仕事をしていても一緒に生活していれば自然と問題は出てくるものですし、私は逆に同業者で良かったなと思うことがあります。一番ありがたいのは落語家以外の人には理解してもらうまでに時間がかかりそうな独特の芸人ルールがツーカーなところです。
昔後輩の女性落語家が会社員の男性とお付き合いしていていたとき、彼よりも師匠の用事を優先していたら「師匠の用事を断れ」と言われたそうです。「落語家とは」と丁寧に説明しても理解してもらえず、けんかになったと嘆いていました。
わが家では、
「師匠から用事が入りました」
「はい、了解」
でおしまい。話が早くて助かります。
もちろんわが家ならではの失敗談も。
落語家の衣装は自前です。着物、羽織、長襦袢(じゅばん)、小物類、肌着ほか、一式を風呂敷に包んで各自が持参します。
ある日、前日に衣装の準備をしないで寝てしまい、出掛けにバタバタ支度をして急いで仕事に行きました。
楽屋で風呂敷包みをあけると足袋がいつもより大きい。私の足のサイズは23センチ。26センチの足袋が入っていました。
この日は、電車の時間に間に合わないと焦って、タンスの中からではなく、目の前の洗濯ハンガーにぶら下がっていた足袋を、これでいいやと洗濯バサミからバチンバチンと引き抜き、サイズも見ないで風呂敷に入れてしまいました。
大は小を兼ねる。
履いてみましたが、見た目はマヌケなペンギン。お客さまに気付かれないように、高速すり足で高座にあがり一席。
ちなみに、小八兄さんは私の足袋が風呂敷から出てきたことはないそうです。
これはもしかして、わが家ならではではなく、私ならではだったのかしら?。