われわれ噺家(はなしか)は定期的に出演する寄席以外に、あちこちでホールや小さな会場での落語会など、違うところで違うメンバーと仕事をすることがよくあります。
そのたびに、仕事終わりに打ち上げと称して飲むことが多いのですが、コロナ禍以降、大人数での会食を控えるようになったので打ち上げもできませんが、何かにつけてよく飲んでいました。
酒の席でよく思い出すのは僕が師匠、先代(三代目)春団治に教えられた言葉でした。
「酒は飲んでも酔うな」
これはお客さんとの酒席での心得で、けっして客に乱れたところを見せるなという戒めです。
現に何度か師匠とお客さんとの酒席に同席しましたが、日本酒好きの師匠に客が何度もお酌する。そのたびに盃(さかずき)を口に運んで飲む。しかも料理はあまり手を付けず飲む一方。それなのに全く酔った姿を見せない。
ところがお開きになってタクシーに乗り込み、見送るお客さんと別れた途端にシートにバッタリ倒れ込むのです。ごひいきに酔った姿を見せない、芸人の美学でした。
そのお教えもあってか、僕もよく「酔っても変わらない」と言われますし、弟子の治門(じもん)もお酒が強いとよく言われます。春団治一門のお家芸は継がれているようです(笑)。