広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成29年9月)<87>

9月7日(木)、「J亭落語会 柳家三三独演会」。演目は以下のとおり。

 

柳家わさび『ぼたもち小僧』
春風亭一之輔『お見立て』
柳家三三『万両婿』
~仲入り~
柳家三三『藪入り』

開口一番を務めたのは今注目の人気二ツ目の一人、柳家わさび。「今日は圓朝作品を…」と言って演じたのは『ぼたもち小僧』。おつかい賃としてボタ餅をもらった小僧の定吉が、自分が遣いに行っている間に小僧仲間に食べられてしまうのではないかと恐れ、ボタ餅に「自分以外の誰かに見つかったらカエルになれよ」と言いつけて出かけると、それを見た主人がボタ餅とカエルを入れ替えて定吉を驚かせようとする、という噺。圓朝全集に『日本の小僧』として載っている小咄をアレンジしたものだ。わさびはこの噺を、今年二月に国立演芸場の「圓朝に挑む!」に出演した時に、同じく圓朝全集に載っていた西洋小咄『西洋の丁稚』と組み合わせ、『西洋の丁稚 日本の小僧』として演じた。その後、『日本の小僧』だけを練り直して『ぼたもち小僧』として演っている。江戸落語に同内容の『蛙の牡丹餅』があるが、そちらのサゲは小僧が蛙に向かって「そんなに跳ねると餡が落ちる」と言うもの。わさびの『ぼたもち小僧』では、蛙で驚かせた後に本物のボタ餅を定吉にあげようとした主人の袂からアマガエルが飛び出したのを見て定吉が「あっ旦那、袂からウグイス餅が出てきた」と言ってサゲ。民話調のほのぼのとした内容がわさびのトボケたキャラに合っていて、実に楽しい。

三三の一席目は『万両婿』。落語で言うところの『小間物屋政談』で、講談では『万両婿』という。現行の『小間物屋政談』は六代目三遊亭圓生がこしらえた型(「このご恩は背負いきれません」「そのほうは若狭屋甚兵衛になったのだ、もう背負うには及ばん」というサゲも圓生オリジナルで、落語研究家・山本進氏のアイディアを取り入れたもの)が基盤となっているものがほとんどだが、三三は講釈師の宝井琴柳から習ったので『万両婿』。若狭屋や小四郎の従弟、大家などの固有名詞が圓生系の『小間物屋政談』と異なるのもそのせいだ。箱根山で身ぐるみ剥がれた若狭屋が「木に縛られている」のではなく「裸でウロウロしていて、いきなり小四郎に話しかけてくる」というのも『小間物屋政談』との違い。相変わらず「万事、私に任せておきなさい!」と請け負う大家のキャラが可笑しい。もっともこの大家、『小間物屋政談』のように独断で女房のお時に縁談を持ち込むのではなく、藤助という男の発案に乗っかっていく、という形。これによって大家が必要以上に悪者にならず、自然に聴ける。

二〇一三年二月の「J亭」でも三三は『万両婿』を演じている。この日、マクラで「毎度おなじみのところを申し上げる、と言っても本当におなじみの演目だと『またかよ』ということになる。でもロック・コンサートだったら新曲よりもおなじみの曲が一番盛り上がるわけで…」という話をしたのは、それもあってのことかもしれない。

仲入り後に三三が演じたのは『藪入り』。昔の「奉公」と「薮入り」に説明し、「ネズミを獲って届けると小遣いがもらえる」こと、さらに「ネズミの懸賞」について説明してから噺に入る。この噺の主役は「三年ぶりに息子に会うのが待ち遠し過ぎて自分が制御できなくなる父親」だ。この父親に共感できるかどうかが『藪入り』のすべてと言ってもいい。小三治は頑固親父の可愛さを見事に描いて聴き手を引き込んだ。三三の『藪入り』も基本形は小三治と同じだが、父親をもう少しオッチョコチョイな人物に描き、人情噺くささを希薄にしている。一方で、三三は母親をよりしっかりした女性として描いていて、父親に殴られて泣いている亀を「亀! お前がいけないよ」とまず叱り、続いて優しく語りかけた後で「泣いてちゃわからない!」とビシッと言うのが魅力的。亀の財布に入っていた十五円がネズミの懸賞に当たったものだったことが判明し、父親は「そりゃよかった、誉めてやろう。これからもご主人様に忠義を尽くさなきゃいけねぇ」とは言うものの、「これもみんなチュウ(忠)のおかげだ」という従来のサゲ(ネズミの「チュウ」という鳴き声と「忠」を引っかけたもの)には行かず、「腹へったな、メシ食おう」と女房に語りかけ、「こんな騒ぎがあったから何も用意してないよ、おかずが沢庵しかないの」「沢庵? 結構だよ、孝行(香々)息子にゃぴったりだ」でサゲ。奉公でしつけられたものの実はまだまだ子供、という亀吉の描き方も含め、「三三らしさ」を随所に感じさせる『藪入り』だった。

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