広瀬和生の「J亭を聴いた」第2回大手町二人会 白酒・三三(平成30年5月分)<93>

今年から始まった「J亭スピンオフ企画 隔月替わり二人会」、5月17日(木)は「白酒・三三」二人会だった。演目は以下のとおり。

 

桃月庵こはく『代脈』
桃月庵白酒『馬の田楽』
柳家三三『三枚起請』
~仲入り~
柳家三三『道具屋』
桃月庵白酒『笠碁』

開口一番を務めたのは白酒の一番弟子、こはく。今年3月に二ツ目に昇進したばかりで、初々しい。前名は「はまぐり」。『代脈』は白酒が従来よりもグンと面白くした噺。ハキハキした口調が素直で好感が持てる。

白酒の1席目は全編田舎言葉で進行する『馬の田楽』。白酒の操る田舎言葉はフラ全開、普通に話してるだけでジンワリ可笑しく、また登場人物ごとの田舎言葉の使い分けも抜群に上手い。要は「馬子が連れてきた馬が行方不明になる」だけの噺で、馬子と人々の会話から滲み出る楽しさが総て。その点、白酒は完璧だ。田舎の暑い日の昼下がりに起きた「ちょっとした事件」を最高に楽しく聞かせてくれる。居眠りする馬子を2時間も見守っていた三州屋のトボケたキャラも素敵だが、何といっても秀逸なのが「タケやんが悪いだ!」と訴え続ける子供の描き方。その必死な表情が堪らなく可笑しい。「タケやん一番悪いヤツでねェか!」という馬子の台詞も爆笑を誘う。耳の遠い老婆との会話では「ウマ!」「ルンバ?」「そぅだに楽しげでねェだ」、「バア様、耳遠いかね?」「バルセロナは遠いよ」といった白酒ならではの「聞き間違いギャグ」もあり、やたら大きな声で喋る気の長い男の「押しの強さ」がまた、わけもなく可笑しい。登場人物全員が生き生きと動き回る情景が高座に鮮やかに浮かんでくる「これぞ落語」という素敵な一席だ。

続いて三三は『三枚起請』。喜瀬川花魁から「年季が明けたら夫婦に」という起請文をもらっている騙され男3人組が、花魁をギャフンと言わせようと揃って吉原に行くと、追い詰められた喜瀬川が開き直る…という顛末を軽やかに描く。「最初は腹が立ったけど、3枚目の起請が出てきたら無性に楽しくなってきちゃった」という若旦那(イノさん)の妙に浮かれた描き方は三三独自のもので、この噺に柳家らしい「ワイガヤ」色を加えている。「花魁に復讐しに行く」という行為はマジになると相当ヤボだが、この若旦那のオチャラけた描き方によってその「ヤボ」を「滑稽」に転換しているのは三三らしい工夫だ。

休憩後は再び三三が登場して『道具屋』。「毛抜きでヒゲを抜きながら与太郎に何度も同じことを訊く男」が聴きどころなのは小三治譲り。男の「そりゃ安直でよかったなぁ…」という台詞が耳に残る。この噺で三三の描く与太郎はどこか醒めていて客をからかう余裕もあり、談志~立川流の「自由人」与太郎に通じるところもあるが、そのトボケたキャラから滲み出る可笑しさは三三ならではの持ち味。こういう噺を淡々と演って楽しく聴かせるのは柳家の真骨頂だ。「相田みつをの偽物」の掛軸でサゲるというのには意表を突かれた。

白酒のトリネタは『笠碁』。先代馬生の型を大きく膨らませ、白酒ならではの「卑怯なくらい笑える顔芸」が全編で爆笑を誘う逸品だ。とにかく「喧嘩をする2人の旦那」が堪らなく愛おしい。「待ったなし」と言っておきながら自ら待ったをしようとする旦那の「みんなに内緒で1回ずつ待ったを」という提案のバカバカしさは、さすが白酒。「いや~偉くなったもんだ」と一昨年の暮れの話を持ち出して「人の道に外れてる」とまで言い募る相手に「じゃあ私も言うけど、8年前の9月だ! お前さん脇に女囲ってただろ!」と逆襲するくだりも最高だ。

「二度と遣いを寄越すな!」と言ったことを後悔している旦那が「ただ退屈してタバコ吸ってるだけ」の描写がやたら可笑しいのも白酒の凄いところ。この旦那が口にする「(碁会所で)この間なんか5つの子供に『オジさん頑張りな』って肩叩かれたんだ! 今までの人生ブチ壊しだよ!」なんて台詞、忘れてきた煙草入れの件で「何でも店の者を使うのは良くないよ」と言っておきながら傘の件では「買い物なんか店の者にやらせろ」と手のひら返しなのも大いに笑わせる。

一方、待ってる側の「この雨、いつまでダラダラ降ってるんだ! お前たちの仕事とおんなじ!」とキレるイライラ加減もまた実に可笑しい。(この日のマイクがちょっとした音を拾い過ぎるので「うるさいんだこのマイク!」とマイクにもキレたのには客席から拍手が起こった) 「あいつが古い話を持ち出して、8年前の…いやいや…」と危うく自分でバラしそうになったのにも笑った。

笠を被って碁敵が来たのを見て途端に上機嫌になった旦那の「こっち来い」という顔、声に出さずに「大ヘボ」「大ザル」と言い合う2人の表情など、最後まで「顔芸」炸裂で笑いっぱなし。『笠碁』はもはや「白酒十八番」と呼ぶべきだろう。最高! 文句なし!

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