広瀬和生の「J亭を聴いた」J亭スピンオフ企画「白酒・三三・一之輔(隔月替わり)大手町二人会」(平成30年3月分)<92>

昨年12月の公演をもって休止したJTホール(客席数256)での「J亭落語会」に代わり、今年からJ亭スピンオフ企画「白酒・三三・一之輔(隔月替わり)大手町二人会」が、東京・大手町の日経ホール(客席数610)でスタートした。
3月8日(木)はその1回目となる「スタートスペシャル三人会 白酒・三三・一之輔」。演目は以下のとおり。

 

入船亭小辰『金明竹』
春風亭一之輔『蟇の油』
柳家三三『五貫裁き』
~仲入り~
桃月庵白酒『お見立て』

開口一番を務めたのは昨今の「二ツ目ブーム」の中でも実力派として知られる入船亭扇辰門下の二ツ目、小辰。「傘の断り方」「猫の断り方」を省略した、いきなり関西弁の男が来る型の『金明竹』。出がけに「店番しろ誰か来たら自分で相手をしちゃいけない、奥におばさんがいるから呼ぶ。頑張れ」と念押しした主人の、最後の「頑張れ」以外の部分を忘れた松公が「誰か来たら……頑張る」と頑張ってしまい、関西弁が聞きとれず何を訊かれても「松公!」と答えてしまうなど、前半で笑いを取る演出が新鮮だ。

続いて登場した一之輔は、白酒が2017年度の芸術選奨で文部科学大臣新人賞を受賞したことに触れた後、最近倉敷で体験した出来事を語って大いに笑わせた。こういうマクラの面白さにも一之輔の卓越した才能を感じる。そして演じた落語は『蟇の油』。白酒の受賞がめでたい、ということで「カネが身に入る」縁起のいい噺として選んだ演目だが、蟇の油売りの口上で拍手をもらった後、「言いたてのある『金明竹』の後でこういう噺をやるって……と演ってる最中に気づきました」と呟いて、また笑いが起こる。

一之輔の『蟇の油』の後半の可笑しさは別格だ。酔っぱらった蟇の油売りの男が暴走しまくって放つ台詞の数々がいちいち爆笑モノ。乱暴さが愛嬌になっているのが一之輔の真骨頂で、この男と客のアドリブ満載のやり取りも実に可笑しい。全編オリジナル・ギャグに満ちたパワフルな一席だ。ちなみにこの日は酔っぱらっての口上の最中に『金明竹』の言い立てを織り交ぜ、客に「しっかりしろ、もと噺家!」とヤジられて「前は小辰といってそこそこ受けてたのに……」とボヤいていた。(笑)

この日の高座返しは金原亭世之助門下の女性前座、金原亭乃ゝ香。2014年ミス東洋大学の審査員特別賞を受賞後、世之介に入門して見習いとなり、昨年3月から正式に前座となったのだが、この乃ゝ香のことを小辰がマクラで長々と語ったため、出てきて座布団とメクリを返す乃ゝ香の姿に客席から拍手が起こった。その後で高座に出てきた三三は一之輔の暴走しまくる『蟇の油』の後ということでまず「普通の落語を演ります」と一言。さらに「……ですけど落語に入る前に一言。今のは何の拍手ですか」(笑) 「私が出てきたときよりも大きかった」

三三が演じたのは『五貫裁き』。「J亭落語会」では2011年9月に披露している。「圓生百席」の1席目として収録されている『一文惜しみ』と同じ内容だが、三三は大岡裁きの講釈『五貫裁き』の系統。五代目一龍斎貞丈から習った立川談志も講釈由来の『五貫裁き』で、「善行に目覚めた徳力屋は潰れてしまい、持ちつけない金を持った八公もどっか行っちまった」という皮肉なエンディングを創作して自らの十八番とした。もちろん三三は「良い話」としてあっさりハッピーエンドにしている。この日の三三は、人に施しをする快感に目覚めた徳力屋の「表におこもさんが来てる? 小判の五、六枚さしあげなさい。え? 利息が払えないから品物を請け出せない? いいよいいよ、元も利息も要らないから返してさしあげて。桃月庵が文部大臣賞? 砂糖二袋あげなさい」との台詞に続き、地の語りで「甘党にも甘かったという『五貫裁き』というお馴染みの噺で……」とサゲた。

休憩後に登場したトリの白酒は、芸術選奨の受賞の知らせの経緯を皮肉な語り口で聞かせて爆笑を呼ぶ。一之輔と同じくマクラの面白さも白酒の芸のうち。「文部科学大臣新人賞をもらった」という話題だけでこんなに笑わせてくれるとは凄い。

高座に上がった時点で8時45分、マクラを15分語って9時から入った落語は『お見立て』。いつもより駆け足のヴァージョンだが面白さはまったく損なわれていない。白酒の『お見立て』は杢兵衛お大尽のバカバカしいまでの可笑しさが突出している。「顔芸」と「声色」だけでも卑怯なくらい笑わせてしまう白酒の真価が発揮される演目だ。杢兵衛の顔を見ただけで笑ってしまう喜助が喜瀬川に伝授された「脛の下に扇子を置いて身体を揺らしてゴリゴリやって痛みで笑いをこらえる」という策を実施する場面の可笑しさは特筆モノ。山谷の寺で墓を適当にみつくろう中で「立川雲黒斎」と談志の戒名が出てきたのも白酒らしい。15分強のコンパクトな『お見立て』で客席を大いに沸かせてお開き。スピンオフ企画スタートに相応しい、密度の濃い会だった。

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