【妄想亭日常】 「リュックとガラガラ」 弁財亭和泉


落語家になる前、会社員をしていました。そのころは、それなりにオシャレにも気を使っていました。夏と冬にボーナスが入ると、毎回新しい服やカバンを購入。

ですが落語家になって前座修業期間は、お金がない、時間もない、オシャレに気を使う余裕もない。

髪はショートカットで顔はノーメイク。服装は動きやすいもの優先で、クツはスニーカー。カバンは入門してすぐに師匠から「両手が空くものを使いなさい」と言われました。師匠方の荷物を持ったり、ドアを開けたり、雑用をこなさなければならないからです。ですから自然とリュックを選びました。

前座の持ち物は多く、着物、草履、出囃子CD、着物を畳むときに使う衣装敷きなどなど。街歩き用のおしゃれなリュックでは入りきらないので、アウトドア用のかなり大きなものを使っていました。

前座のころ、浅草演芸ホールの近くの和風雑貨店で荷物がパンパンに詰まったアウトドア用のリュックを背負ったまま買い物をしていたら、店員さんに観光客と間違われ「これ良かったらどうぞ」と浅草の地図をもらったことがあります。

二ツ目に昇進すると、服装もメークもカバンも自由。ですが、なかなかすぐにはリュックから卒業できませんでした。

二ツ目になると途中からリュックを卒業して、小さ目のスーツケース(通称ガラガラ)を使い始める人が多いのですが、昔先輩から「ガラガラ使うようになったら売れてきた証拠」「成り上がりのサイン」と言われ、その言葉のインパクトが強く、なんとなく気恥ずかしくて使っていませんでした。

しかし、そんな私も二ツ目の途中でリュックを卒業、ガラガラデビューしました。それは、残念ながら売れてきたからではなく、長時間大荷物のリュックを背負っていると腰痛がひどくなってしまうため。落語家がガラガラを使い始めたらそれは「成り上がりのサイン」ではなく「老化のサイン」だと身をもって実感したのでした。

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