【妄想亭日常】 「落語の仮面」 三遊亭粋歌
いよいよ、来月3月21日から落語協会真打昇進襲名披露興行が始まります。真打昇進は、落語家にとって一生に一度のビックイベントです。うれしい半面、それだけプレッシャーも。これまで、先輩たちが真打昇進前の準備に追われ、げっそりしている姿を何回も見てきました。
やつれた先輩たちから『時間がない』『寝る暇がない』『気づかいし過ぎてメンタル崩壊しそう』などなど、愚痴という名の脅しを幾度となく聞かされ、とうとう自分の番がやってきました。なるほど、やらなければいけないことのオンパレードです。
先輩たちが全てを乗り越え、別人のように華々しく披露目の高座でトリをとっていた姿を思い出し、それを心の支えにして着々と準備を進めています。
年明け早々に緊急事態宣言になって、仕事のキャンセルが増えたり、真打昇進披露パーティーが中止になったり、色々なものがなくなったり。でも、先輩たちがとにかく足りないと嘆いていた、時間だけは自然と増えました。今は、披露目のトリでどんな噺をしようか妄想しながら、ひとり稽古の日々です。
三遊亭白鳥師匠が作った「落語の仮面」という新作落語があります。全十話の連続もので、超大作です。
原作は、あの大ヒット少女漫画、美内すずえ先生の「ガラスの仮面」。原作の大ファンだったので、白鳥師匠にお願いして、私も高座にかけさせていただいております。
地味でなんの取り柄もない平凡な女の子が、実は天才落語少女だった。その才能を見抜いた伝説の女性落語家、三遊亭月影が、彼女を弟子にして三遊亭花という名前を与え、厳しい修行の中、花が成長していく物語です。
原作に出てくる名台詞「仮面をかぶるのよ」。落語の仮面の中では、師匠の月影が弟子の花に「落語の仮面をかぶりなさい」と叱咤(しった)激励する場面が何度も出てきます。最近は、このセリフが心に沁(し)みます。
私も「落語の仮面」をかぶって、三遊亭花のように全身全霊、披露目の高座に臨みたいと思います。