10月いっぱいで国立劇場(東京都千代田区)が閉場。大劇場・小劇場・演芸場の3館が建て替えのために取り壊されるため、今月末までそれぞれ「さよなら公演」が開催されていて、私も22日、国立演芸場「日本の寄席芸」公演に出演する。
国立演芸場は故春風亭柳昇、先代三遊亭金馬の師匠方が先立ちになり、国に掛け合い念願叶(かな)って昭和54年に誕生した史上初の国立の寄席だ。
高座板は白木で美しく、四季折々に合わせて大道具さんが寄席囲いの趣向を凝らしてくれる。下座の鳴物は本寸法(ほんすんぽう)の道具がそろっていて、楽屋も広くきれい。客席も300席と落語にはちょうどいい数で、ロビーもゆったりとして過ごしやすい。演者とお客さまの両意見を取り入れて吟味して作った、とても喋(しゃべ)りやすい劇場。壊すのは本当に惜しい。
協会や流派・東西の垣根を越えての落語会も開催されるので、楽屋ではたくさんの師匠方にお会いすることができた。高校生の頃、(立川)談志師匠を初めて聴いたのも国立の談志ひとり会の客席だ。寄席小屋に染み込んだ芸人の匂いはとても貴重なもので、かえすがえす壊すのは実にもったいない。
建て替えの理由は老朽化(らしい)。だが資材高騰もあり建築業者が決まらず、一応「2029(令和11)年秋」とはなっているが、完成のめどは立っていないという。果たして建て替える必要が本当にあるのだろうか。改修じゃダメなの?
楽屋でベテランの師匠方がこぼしている。「ま、俺たちはそこまで生きてないだろうな…」と。
やるなら早くしてください。もしくは前言撤回でも別にいいですよ、誰も怒らないから。とにかく国立がなくなる空白の期間が怖いです。世の中この先どうなるかわからない。壊してから「やっぱり建て替えやーめた!」とかはご勘弁。
豪華絢爛(けんらん)でなくていいから、演者とお客が納得いく現演芸場のような、いい寄席を造ってください。