8月24日(木)、「J亭落語会 桃月庵白酒独演会」。 演目は以下のとおり。
三遊亭あおもり『浮世根問』
桃月庵白酒『金明竹』
桃月庵白酒『しびん』
~仲入り~
柳家さん光『幽霊の辻』
桃月庵白酒『干物箱』
白酒の1席目は『金明竹』。おなじみの前座噺だが、白酒の『金明竹』はおかみさんが旦那に伝える「中橋の加賀屋佐吉方から来た上方弁の遣いの男」の口上の珍解釈が、普通とはだいぶ違ってバカバカしい。仲買いの弥市は兵庫へ行って「そうめん工場の掃除婦と友情をはぐくんだうえで寸胴切りにしてタクアンをゼンジー北京がインゲンマメに変えて屏風の向こう側にダウンスイングの坊さんがいる」というのが白酒版。立川談笑が上方弁を津軽弁に置き換えたように、方言の部分をアレンジすることでこの噺を生まれ変わらせた演者はいるが、上方弁を変えずにここまで面白く演じるのは白酒だけだ。ただし、これを白酒に教わったとおりに前座がやってるのを何度も観たが、白酒ほど面白くない。やはり落語は「間」であり「語り口」であり「人」なのだな、と思わせられる。
白酒の二席目は『しびん』。田舎侍が、道具屋に置いてあった使い古しの尿瓶(しびん)を珍しい「しびん焼き」なる高価な花瓶と勘違いし、その勘違いに付け込んで道具屋がそれを五両で売りつける、というだけの噺で、ヘタな演者がやるとどうにもならないが、白酒がやると堪らなく可笑しい。侍にしびんを売りつける道具屋の対応、胸を張ってしびんを自慢げに持ち歩く侍を目撃して驚く町人たちの描写、宿に帰ってから悦に入ってしびんに菊を活けている侍の様子など、あまりも素敵だ。こういうくだらない噺にこそ落語の真髄がある。白酒の「落語の上手さ」が如実に表われている一席で、先代金原亭馬生の『しびん』のトボケた可笑しさを白酒の個性でパワーアップしたような感じ。しびんをぶら下げて歩く侍を見て「なぜあんなことをしているか」を泣きながら語る男が出てくるのは白酒オリジナル演出だ。
休憩後にはゲストの柳家さん光が『幽霊の辻』を。峠で道に迷った男が茶店の婆さんに「このあたりは日が暮れると大変なことになる」とさんざん脅かされる噺で、小佐田定雄が桂枝雀のために書いた新作落語だが、柳家権太楼がこれを東京に持ってきて、サゲを変えて演じている。さん光は権太楼門下の二ツ目。
白酒の三席目は『干物箱』。道楽者の若旦那が父親の目を盗んで遊びに行くために、自分の声色が上手い貸本屋の善公を身代りにして部屋に置いておく、という噺で、桂文楽、古今亭志ん生が共に演じ、志ん生の二人の倅(金原亭馬生・古今亭志ん朝)も得意とした。白酒は馬生の流れを汲む五街道雲助の『干物箱』を受け継いでいる。こういう噺での白酒は古典落語の伝統を守りながら、その中で現代的なキャラが自在に動くバランス感覚が実に見事。二階で独り言がエスカレートしていく善公の描き方は馬生や雲助よりもグッとテンションが高く、そのノリはむしろ志ん朝を思わせる派手さで、それが実に楽しい。目新しいギャグではなく人物の描き方で楽しませる正攻法の一席で「落語っていいなぁ」と思わせてくれた。